小話0

□言葉なき愛の告白。
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(※マルコ)
(※ランダム表示中)




「…おい」


廊下ですれ違いざま、俺は彼女の腕を掴んだ。


「何」

「何、じゃねえだろうが」


俺が詰め寄ると面倒臭そうにこちらに向き直る。


「もう増やさねえと約束したろい」

「さあ、したかしら?」


すっとぼけてみせる彼女は謝る気も反省する気も皆無。むしろ開き直ってさえいる。


「…お前が約束を破るのは何回目だよい!」

「マルコってそんな事いちいち数えてるの?」


ポケットから煙草を取り出して吸おうとするのを取り上げる。

水色のタンクトップから覗くしなやかな腕。
彼女の両肩から二の腕にかけては豪奢な刺青が彫り込まれている。


「右腕の手の甲。その青い羽根はこの間までなかったはずだ」

「気のせいじゃないの。鬱陶しいなあ」


彼女の刺青は腕に止まらず、胸元、首、指に足の甲、太もも…これでもか!と言わんばかりに飛び散っている。

中でも一番デカイのが背に彫り込まれたオヤジの刺青。
それを誇らしげに見せびらかすよう背の開いた服を好んでよく着ている。


「似合うでしょ?」

「そういう問題じゃねえ」


腕を掴む手に力が入る。
彼女はニヤニヤと小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「マルコって独占欲強いわよね」

「ああ?」

「この身体はあなたのものじゃない」

「っ!」


どうしてこう、こいつは無神経なのか。
違うな。敢えて俺の神経を逆なでする事を選んで言ってるのだろう。


「それにオヤジは褒めてくれたわ」


ぐ、と、また言葉に詰まる。

この船に居て。白ひげ海賊団の乗組員として、それに息子として。
オヤジの言葉ほど重いものはないからだ。


「…勝手にしろ」

「当たり前じゃない。何言ってるの?」


俺が手の力を緩めると彼女はするりと腕を抜き取り、青い羽根に唇を寄せた。

…俺の気持ちを彼女に伝え、幾度と身体を重ねても少しも彼女の心が俺に向いている気がしない。

止めろと言っても聞かない。
やるなと言っても駄目だ。

関係を持つ前からそうだが、好意を伝えても行為で示しても、彼女の態度に変化はなくて。

…想いを寄せているのは自分だけの様だ。


「…お前、本当に俺のこと好きなのかい?」


こんなクソみたいな言葉を女に吐く日が来るとは思わなかったよい。

情け無さと自己嫌悪で気持ちが悪い。
口に出した言葉は取り返しがつかねえし、舌の上に苦く残る様な後味の悪さを感じた。

彼女はそんな俺を見て、また小馬鹿にしたいつもの顔を浮かべる。


「そうですよ?文句でもあるんですかマルコ『隊長』」


引いた身体を猫のように擦り寄せて、俺の口の端にキスをした。


「こんなキスで誤魔化すつもりかい」


いっそ傲慢とも取れるような目で俺を睨め付け、彼女は言う。


「…本当に馬鹿な人」


ひらひらと右手の甲を俺に見せつけるよう振る。


「何に見える?」

「ああ?羽根だろい」

「…何で、この色の羽根を、身体に入れたと思う?」


言葉を区切って言われると腹立たしい。
それは物分かりの悪い子供に言い聞かせるような言い方だ。


「…何でって…そりゃァ………、!!」


青。
青い羽根。

…何で鳥本体じゃなくて羽根なんだ?しかも色は青。

脳裏をよぎる、青い炎を揺らす鳥。
それはつまり。


「……似合うよい」

「初めからそう言えば良いのよ」

「………すまねえ」


にやけそうになる口元を手で隠すと、彼女は俺の顔をニヤニヤと覗き込んで。

ちゅ、と俺の手の甲にキスをした。


「うふ、マルコの間抜け面って大好き」


ステップ踏んで俺から離れ、鼻歌歌いつつ廊下を歩き出した。


「うるせえよい。後で部屋に行くから鍵閉めるなよ」


その背に声をかけると、彼女は振り返らず右手をひらひらと振る。

揺れる青い羽根。
…後でベッドの中でよく見てやろう。







囚われぬ

自由の翼。







(…っあなたって…い、つも…しつこいのよ…っ)

(…そっちこそ、素直に言えよい)



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