小話0
□odorifero.
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(※ACE)
航路は至って順調。
風向き良し、天気も良し、おまけに他船の姿も一切無し。
この『平和』状態が既に10日目。
…と、なれば暇を持て余すのがウチの連中。
賭け遊びに飽きたとしても掃除や片付けに精を出す訳もなく、大多数がヒマだと喚きながら甲板に転がっている。
「…よォし!隠れ鬼しようぜ!優勝者にはこのサッチ隊長が好きな献立作ってやるよ!」
甲板でダラダラとしていた所にサッチ隊長の明朗な声が響き、暇を持て余した殆ど全員が参加表明をした。
「鬼役は俺がやってやる。十分経ったら探し始めるから参加者は紙に名前書いて散れ」
「「「了解!」」」
それぞれが紙に名前を書き思い思いに散っていくのに倣い、わたしも記帳してから船内に駆け込んだ。
さてと。
どこに隠れたら見つからないかな?
何せサッチ隊長が鬼役なんだもん、意表を突かないと逃げ切れない。
「あ、ここなら…!」
ここの鍵って実は壊れてるんだよね!
意気揚々と身を滑らせたら中には先客がすでに居て、ぶつかった。
「…エース隊長!?」
「ゲッ!お前もここの鍵壊れてんの知ってたのか」
こんな所で何を?と聞く前に解った。
倉庫を隠れ場所に選んだのだろう。
エース隊長は食べ物絡みとなると本気で勝ちに行く気らしい。
「…悪いけど早いもん勝ちだ。他を当たってくれ」
お前の居場所はない、と倉庫内の頼りない照明の下で追い払うように手を振られた。
「嫌ですよ!このモビーディック暇人対抗・隠れ鬼大会、最後まで見つからなかったらサッチ隊長が何でも好きなごはん作ってくれるのですよ!?」
目的のスイーツ名を羅列するとエース隊長は呆れたように嘆息した。
「…太るぞお前」
「ええ、解ってますよ望むところですッ!!でもサッチ隊長のリクエストごはんですから!」
「こっちだって目的は同じだ、負けられねえ!!」
情け容赦なく追い出そうとするエース隊長にしがみついて懇願する。
「もう隠れ鬼は始まってるのに、ここから追い出されたらすぐ見つかっちゃうじゃないですか!」
腕を掴んでドアの外に引っ張り出そうとするエース隊長に負けじと、わたしは隊長の帽子の紐を鷲掴みにして抵抗た。
「〜〜やめろ、紐が千切れるだろ!」
「いっそ二人でタッグ組んで勝ちましょうよ!お願いエース隊長!!」
帽子を壊されてたまるか。
そう思ったのかエース隊長の手が緩んだ。
「…お前って本当、サッチが好きだよな」
「うぐっ!それはお互い様じゃないですか…」
サッチ隊長のご飯の威力というのは凄いのだ。がっつくに値する。
埃臭い倉庫の中、扉を開けられてもすぐに見つからないようにわたしたちは棚の隙間に隠れた。
「…………」
「…………」
どのくらい経ったのかな?身体が痛くなってきたし…無言で飽きてきた。
「っ!」
体勢を変えようと身動いだら、バランスを崩した。
「…落ち着きねえ奴。気をつけろよ」
「!」
埃臭い暗がりの倉庫の中、懐かしいような日向の匂いが鼻を掠めた。
ぶつかるところだったのをエース隊長が抱きとめてくれたみたい。
密室に二人きりで密着。
そう意識したら急に恥ずかしくなった。
「…え、エース隊長ってなんで半裸なの?!」
「…お前こそ腹出すの止めろ」
ええ?!それはアレですか?わたし太ったとか見苦しいとかそういう事ですか?!!確かに昨日もチョコ食べたりしたけど!
焦って身を離そうとしたのに、お臍の辺りに体温を感じて固まった。
「その服、臍の下まで見えそうなんだよ」
「!?」
あれ、エース隊長の腕ってこんなに熱かった?
「…冷たッ、ほらみろ腹が冷えてるじゃねえか」
「わあ!どこ触って…」
「どうせサッチに乗せられてそういう服着てんだろ」
「うひゃッ、脇腹は」
「あ、ここ怪我した跡か?凹凸がある」
「〜〜お腹を揉むな!!」
あっちこっちと身体を這い回る手、意識してるのってわたしだけ?
束の間の
蜜月。
(変態!セクハラ!最低そばかす!!)
(でかい声出すなよ見つかるだろ!?)
(いやー!犯される!!)
→(※THATCH)