Are you Lady?

□見当違いな思い違い。
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(Side U)




自分の部屋を飛び出して、走って走ってサッチを見つけてしがみついた。


「聞いてよー!サッチ!エースがいじめるーー!!」


サッチはいつでも私に優しいから、何かの途中だろうが私を優先してくれる。

マルコは『サッチ、お前はなまえを甘やかし過ぎだよい』と文句を言うけど、サッチがそれを聞く事はない。

サッチは優しいから好き。
マルコは、ちゃんと怒ってくれるから、…好き。

唐突にしがみついたのに、サッチはすぐに私を抱きしめてくれる。


「んー?そっかそっか、そりゃエースが悪いな!一から億までエースが悪い。よしよし」


エースが何をしたか説明していないのに、サッチは私の味方になってくれた。


「私のコレクションなのにー!持って行かれたあああ!」

「ああ、もしかして手配書の事か?取られたのか」

「うん、随分前のだから出回ってないやつなのに…」


足りてない言葉の端々から、それでも言いたい事を理解出来るのは付き合いの長さ…ってより濃さ、だろうな。
サッチって私の考えてる事とか読めるのかな?

私の身体に回した手が慰めるように軽く背を叩く。


「しょうがねぇ奴だな、エースは。誰の手配書だ?俺が探してやるよ。だから泣くななまえ」


ぽん、ぽんとリズムを刻むサッチの優しい手。


「エースの」

「……ん?誰だって?」

「エースの手配書、エースに取られたの」


そう告げれば、サッチが私の身体から手を離して顔を覗き込んだ。


「えっと、…つまり?なまえがコレクションしてた手配書にエースのがあったんだ?」

「うん」

「で、それ見たエースがとっ散らかってアホやらかした、と?」


確認してくるサッチに私は頷いた。

アホやらかしたってのがよく解らないけど手配書を私から奪い取った事なら間違いなく『やらかした』


「初めは手配書の整理手伝うって言ったの。だけどエースの手配書見たら何か怒りだして…」

「ああぁ〜、何かお兄ちゃん、察しちまったわ…」


額に手を置いて天井を仰いだ。


「返してくれそうに無いんだ、取り戻すのを手伝ってよサッチ!」


服を掴んでお願いする。
ちら、とサッチの視線が私に向く。


「…可愛い妹のお願い、俺が聞かなかった事とかないよな?」


やっぱり。

可愛いかは解らないけどサッチに頼んでダメだった事、ないもんね。
断らない、って解ってるからサッチには小さなワガママまでしか頼まないけど。

無理な事言っても、サッチは叶えてくれるだろうから…。


「…うん、お兄ちゃん大好き」


これは本当。
恥ずかしいからたまにしか言わないけど『お兄ちゃん』という単語はサッチにはとても嬉しいものらしい。


「〜〜〜っ!!なまえ、俺も大好き!超好き!ちゅーしていい?」


むぎゅー、と抱き締められ、腕の中から私は返事した。


「いいけど、口はダメだよ。マルコが怒るから」

「マルコって過保護だからなー、なまえに対して!……ん」


ちゅ、とサッチの唇がおデコに触れた。続けて目蓋と鼻の頭にも。
くすぐったいけど嫌では無い。


「ん〜、……っよし充電完了ー!」


サッチは笑ってから、私にある方法を伝授してくれた。


「絶対効くからコレ!そろそろ夕飯の時間だし、レッツトライ!」


親指を立て自信満々に勧められたソレを私は意気揚々と実行に移した。

サッチがあれだけ言うんだ、絶対行ける!みてろよエースめ!
手配書を取り返す為に私は燃えた。

決行は騒がしい夕飯時。
自分の食事を手早く済ませ、食堂内でお茶を飲みつつ獲物を待つ。

…来た!エースだ!

姿を確認し、タイミングを見計らう。
食べ始めは空腹感で苛立ってるし満腹になったらさっさと移動しちゃうからな、エース。


……今だっ!


ガチャン、と顔をお皿に突っ込んだのを見てから私はエースのテーブルまで素早く行った。


「エース、エース……エー、ス!!」


揺すったぐらいじゃ起きないのは知っているので、私はエースの頭に拳をお見舞いしてやった。


「……っぶ!!」


ご飯を付けたままの顔が跳ね上がる。
私は素早くしゃがみ込んだ。


「……なぁ、今誰か俺の事を殴らなかったか?」

「ぎゃははは、殴っちゃいねえよ!オレ達は!」


頭を押さえながら言うエースを同じテーブルに座るクルーが笑った。

私がエースを殴ったのをコントか何かの余興だと思ったみたいで、にやにやと様子を伺ってきた。

私はしゃがんだ姿勢のまま、椅子に座るエースの服を引っ張った。


「エース」

「ん?なまえじゃねぇか、何してんだそこで?」


エースを見上げて、私はサッチに教わった事を実践する。

ポイントそのいち『下から見上げる』

立っていてもエースの方が高いけど、今の姿勢だと確実に下から見上げてる。

ポイントそのに『太ももに手を置く』


「…っ?!ブホッ!」


する、と手をエースの太ももに置くとエースは口から食べかけの食事を噴き出した。

うわっ!汚ッッ!!

一瞬ひるんだが、ここで引いたらダメだ私!!


「ば、バカ!お前急に、何だよ?!」


テーブルが死角で私が何をしているかは他のクルーからは見えず、噴き出したエースにブーイングが集まった。

えっと、ポイントそのさん…『お願い』って迫ること…。


「エースの手配書、返して……『お願い』…」

「いや、待っ、…待て!ちょっと今やべえから!!」


お?何か効いてるっぽいぞ?サッチ流石!!

椅子から立ち上がりそうなエースに私は逃がすもんかと距離を詰めた。


「…あれ大事なの。ねぇお願い!」

にじり寄りシャツを掴んでお願いと重ねて頼んだ。

懸賞金が変われば、以前の手配書は廃棄されてしまうから手に入れ直すのは骨が折れるのだ。

私がシャツを掴んだせいでバランスを崩したのか、エースは椅子から落っこちた。

顔の位置が近くなり、エースの表情がよく見えた。

……?すごい顔が赤いんだけど…。


「エース?」

「〜〜っ返す!返すから、…後で部屋まで持って行く!!」


だからあっち向け、と言ったエースの方がそっぽ向いた。


「本当?返してくれる?約束だからね?やったあー!」


私はしゃがんだ姿勢から跳ね上がる。

あー、良かったぁ!
これでマイコレクションに不備なし!


「〜〜くそ、お前…解ってんのかよ?つーか解ってないのかよ?」


ブツブツ言いながらエースは椅子に座り直してしかめ面のままご飯を掻き込んだ。
手配書が返ってくるならもうここには用は無い。

サッチによくお礼を言わなきゃね!


「お邪魔しましたー、皆さんドーゾごゆっくり」


テーブルのクルーに無駄に愛想振りまいて私はサッチの所に向かった。

エースが周りのクルーに何かからかわれ囃し立てられている声が後ろで聞こえた。

きっとご飯噴き出したり椅子から落ちたりするからだ、ザマーミロ〜!







無自覚な

小悪魔。





(おいおい、エース?お前テーブルの下でなまえとナニしてやがったんだ?)

(いやだねー、若いやつは大胆で!)

(うるっせぇ!ナニもクソもしてねぇよ!)

(…カレー食ってる時にクソとか言うんじゃねえ!エース!)




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