Oh! My Girl!!


□Teach me ?
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(Side U)






「仕事だァ?お前に出来ることなんざ、今はねぇな」


何か船の上で働かせて欲しい、仕事が欲しい、と言った私ににべもなく親父が言い放った。


まぁ、確かにそうなんだけれど。

……あまりにもあっさり切り捨てられると『役立たず』と暗に言われたようで、やっぱり悲しい。


「トイレ掃除とか」

「そういうのは隊で分かれて担当がある」

「戦闘、とか」

「ふん。なまえ、お前ェみてえな貧弱が役に立つか」


…貧弱…ああ、何だか前にも誰かが私に言ったような…。
頭の片隅を、何かが掠めたが今は親父との話に集中。


…でもそうだ、弱そうなら弱そうで、使い道はあるはず。


「…戦闘の時に囮になれると思」


私の言葉の途中で親父からビリビリと体を揺さぶる様な見えないエネルギーの様な「何か」が出た。


「……囮だと?お前ェは俺達が家族を、なまえを囮にして闘うと思ってんのか?」


親父は眉間に皺を刻み、低く響く声で私を恫喝した。

周りのクルーは、固まった。


「いえあのデスね!例えばの話であって、その、怒らせるつもりはなくて!!」


大慌てで否定した。
周りのお兄さん方々が、泡を吹いて倒れ出したからだ。

ちょっとした提案のつもりが修羅場の様になってしまった!

私は深々と頭を下げた。


「親父、ごめんなさい!」


親父は気を鎮める様に、鼻から大きく息を吐いた。


「なまえ、そういうことは二度と言うんじゃねえ。今回は大目にみてやるが、次は怒るのは俺だけじゃねえからな。」


親父の言葉に、周りを見るとサッチお兄さんも、マルコも苦笑いをしながら頷く。


「…うん、言わないように気をつける」


私は周りのクルー達の眼差しや、親父の言葉で何故怒られたのかを知った。

彼らは私が役に立たない事を怒ったのではないんだ。
まだ脆い、この体の事を案じてくれたのだ。

胸の辺りがじわり、と温かくなったように感じる。


「なまえ、考えるのもだめだぞ」


サッチお兄さんが下がり気味の眉をわざとらしく吊り上げ、言い放つ。

その真面目くさった様子がおかしくて、私は笑い出してしまう。


「あははは!あは、うん、解った」

「怒られてんのに笑うんじゃねぇよい、なまえ」


マルコも私のその様子を見て笑いだした。

周りの空気が和らぎ、金縛りが解けた面々は倒れたクルーを運び出す。


「マルコ、なまえを書庫にでも連れていけ。手が空いたら相手してやれ」

「了解」


親父がマルコに指示を出す。
もう怒ってない…のかな?

それにしても、書庫かー。
こんなに立派な船だもん、きっと珍しい本や貴重な文なんかが山ほどあるんだろうなぁ!

読みたい!とは思うけれど…。

お世話になっているのに好きな事ばかりして、仕事をしないのはどうなんだろう…。


「暇だってんなら本でも読んでろ。なまえは本が好きだったからな。」


親父はグララララ!と笑って、私の知らない『私』を語る。

確かに本や文章の類いは種類を問わず、どんなものも読んでいた記憶はある。

親父は私と知り合いだったんだよね?
…私の思い出せない『私』を知っている。

以前はどうだったのかと尋ねたら答えてくれるだろうか?


思いを巡らし始めた私の思考は、サッチお兄さんによって阻まれた。

「オヤジっ!なまえを書庫に連れていくなら、俺が」

「サッチの隊、今月掃除当番だろい」

「うぐっ」

「グララララ!サッチ、なまえを随分気にいったみてぇだな!構いてぇなら自分の仕事終わらせてからにしろ」

「マルコ!手前ェ、俺の見てないとこでなまえに手を出すなよ!!」


親父の言葉に、サッチお兄さんは反論せずマルコを指差して言った。


「ロリコン野郎と一緒にすんな!手なんかだすか!!」


マルコが怒鳴り返す。

だけど、ふと何か思い付いたようだ。私に向かって笑いかけると腰を屈めて視線を合わせる。


「…あのバカは放っておいて、俺と本でも読もうな?」


私の頭をぐりぐり撫でる。

それを見たサッチお兄さんが叫んだ。


「おらァ!さっさと掃除済ませんぞ!動け!働けェ!なまえ、待ってろよ!!」


くつくつと笑いながらマルコが「単純で助かるよい」と呟いた。


「じゃあ、行くかい。なまえ、おいで」



私はマルコに手を引かれ、書庫に向かった。

背中にサッチお兄さんの怒声を聞きながら。




→(side MARCO)




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