Oh! My Girl!!


□Fluctuating life!
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(Side U)





これは、避けては通れない道だ。
だから大丈夫、何てことない。







私はドアを開けた。
そこはとても混み合っていたけれど、端の方に何とか場所を確保できた。


ふー…狭い。
暑苦しい。騒がしい。

さてそれでは…と思ったところにガツン、と隣の人の肘が頭に当たった。



「あ、悪ィ」

「いや、大丈夫」


隣の人がびくりと体を揺らして、こちらを見ると、目を見開いてその姿勢で動かなくなった。


「うん?ちょっと痛かったけど大丈夫」


その人の目の前で手をヒラヒラ振りながらもう一度答えた。


「……っなまえーーーーー!!?」


叫ばれた。


「え?あ、はい。なまえです」

「は?!なまえちゃん?」


後ろからも声がした。
振り返って見ると口をいっぱいに開いた顔が並んでいる。


「……はい、なまえですけど?」


途端に周りのざわめきが一斉に止んだ。


「「「おま、なまえ!何やってんだァァァァ!!」」」


一拍置いた後、全員が叫んだ。
何って……ここですることなんて一つだよね?


「お風呂に入りに」


温かかった空気が冷えた気がした。
私が至極当たり前の事を言うと、全員が騒ぎ始めた。

ある人はせっかく脱いだ服を着込みはじめ、またある人は脱いだ服で股間を隠す。

お婿に行けない…と呟いている人も居た。


「それなら、お嫁さんを貰ったら良いから大丈夫」


私はその人に頷き保証した。
何故だろう、泣きそうな顔で見られてしまった。

脱衣場の奥にある浴室から派手な音をたてて誰かが飛び出してきた。


「おい!今ここで聞いちゃならねえ、とんでもねぇ名前が聞こえたような気がすんだけど…」


頭に泡をたくさんつけて、腰にタオルを巻いたサッチお兄さんだった。
他の人と同じく私を見るなり顎が外れそうな程、口をいっぱいに開いた。


「サッチお兄さん、頭から泡が」

「……何やって、んだ?なまえちゃん?」

「お風呂に入りたくて」


そう。昨日はあまりにもいろいろあって入浴前に寝てしまったんだ。
今日こそ入りたい。

例え男のクルーばかりであっても家族だから大丈夫。

私は着ていたコートを脱ごうとボタンに手を掛けた。


「おわぁああああ、待て、待てよ!なまえ!!」


サッチお兄さんが脱衣場を駆けてくると、私の手を掴んでそれを止めた。

私達の周りはまるでクレーターの様にぽっかりとスペースができ、他のクルーは端で身を寄せ合ってこちらを見守っている。

「落ち着け、なまえ!話せばわかる!!」


ガッチリと腕を掴まれたまま、壁際に設置されているロッカーとサッチお兄さんの体の間に閉じ込められた。

私を押さえつけて慌てているサッチお兄さんの頭から、ポタリポタリと私の顔に泡が降ってくる。


「あの、ちょっと」

「ダメだって、脱ぐなよ?!なまえ!」


泡がかかるので何とか避けようと身を捩ると、より強い力で押さえつけられる。

参ったな、コレ。
なんでこんなことに……?

顔に幾つも垂れてくる泡を感じながらぼんやり考えていたら、がら、と音をたてて誰か入ってきた。

この場に居た全員の注目を集め、登場したのは…。




「……サッチ、手前ェ!何してやがんだよい!!!」


マルコだった。


「マルコ〜〜!丁度良かったぜ!なまえがさぁ…」


ほっと息を吐いて、マルコに向かってサッチお兄さんが口を開いた。


「なまえから手を離せよい、この腐れロリコンリーゼント!」

「は?何言って…」

「妹が可愛いってのは解るが、風呂場に連れ込んで何しようってんだよい?ああ?」


マルコはサッチお兄さんを射殺しそうに鋭く睨んで、静かに恫喝した。
マルコの言葉に、はっとしたようにサッチお兄さんは私を見た。

そして、青ざめた。
それは見事に。


「いやいやいや、誤解だ!まじで!」


サッチお兄さんは、大慌てで私から離れた。


「違うんだ、マルコ!俺は別になまえを襲っていたとかじゃねぇんだ!!」


周りのクルーは最早、誰も目を上げずに押し黙っている。
空気が重苦しい。

………私はなにか、悪いことをしたんだろうか?


「へぇ、俺にはどう見たって、なまえを無理矢理押さえつけてる強制猥褻罪のロリコン野郎にしか見えねえよい」


吐き捨てるように言うマルコに罪悪感が募った。


「違う!俺はなまえが脱ごうとしたのを止めようと…」
「あの、私が何か悪いことをしたみたいで…」


謝ろうとした私と、ブンブンと手を振って誤解だと叫ぶサッチお兄さんの声が重なった。

手を振った振動でサッチお兄さんの腰のタオルが緩んだ。


「あ」


タオルが落ちた瞬間、ぶち、と何かが切れたような音がした。

ぐい、と私を引っ張り手のひらで目を覆うのと、サッチお兄さんの顔面に持ってきた風呂道具を叩きつける、という二つをマルコは同時にやってのけた。

「汚ェ!そんな粗末なもんなまえに見せんじゃねえよい!ドコまで腐ってんだ!色魔露出狂!」


命中したらしく、ドサリと倒れる音が聞こえたが私の視界はマルコに遮られたままで、サッチお兄さんの安否は解らなかった。


「ソイツはそのまま転がしとけば良いよい。邪魔したな」


マルコの声に、ざわめきが戻った。
そのままマルコは私を脱衣場の外まで誘導した。

外に出ると私の目元から手を離してマルコは優しく私に聞いた。


「大丈夫か?なまえ。変なとこ触られたりしなかったか?」

「腕を掴まれたくらいで、特に何も」


………私、今日お風呂に入れるんだろうか?
お風呂場をじっと見る私に気づいたのか、マルコは慰めるように私の頭を撫でた。


「あの変態に何か言われたか?」

「………マルコ、私……」


言い淀む私にマルコは表情を引き締めた。


「何でも言いな、なまえ。何でも相談にのる」

「…服を脱がないでお風呂に入れると思う?サッチお兄さんが脱ぐなって言うんだ」


尋ねたらマルコも固まった。


「……いや………、そうだな、服は……って、おい待てよい!なまえは今風呂に入る気だったのか?……男と一緒だぞ?」

「え、だって『家族』だし。それに裸の付き合いとか…」

背中流し合って、湯船に浸かって歌うたうんだよね?違うの?


「……オヤジに女用の風呂の設置を頼むから、出来るまでは一番最後で我慢してくれよい。俺が見張りに立つから」


額を押さえて言うマルコ。


「一緒は駄目なの?マルコ一緒に入ろうよ!背中流すよ!背中!」

「駄目だよい」

「何で?」








女の子との

生活、開始。






(じゃあ、サッチお兄さんに頼んでみる)

(……オヤジ!女用の風呂の設置を出来るだけ早く頼みてぇんだが!)

(グララララ!一緒に入ってやりゃあ良いじゃねえか)




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