死という時計

□1話目
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時計





時計












僕の世界は、


死という名の時計で廻る。





決して動くことのない僕の時計…




いつか、動くときが来るのだろうか。





―1、管理者―





『クフッ、死ね☆』



ザクッという奇っ怪な音を立てて真っ赤な華が咲き乱れた。

地面には短刀を突き立てられ、無惨にも切り落とされた顔なしの右腕がゴトリと落ちる。




「ぅ…」



『………じゃ、遠慮なくあんたの時計貰っちゃうぜ?覚悟しろぃ!!!』








ぐちゃっと心臓、いや、時計のある位置に短刀を突き立てた女の子。そして、これでもかという程にえげつなく同じ箇所を何度も短刀で突き刺す。


ぐちゃ
ぐちゃ
ぐちゃ
ぐちゃ


その表情はにこにことしていて、ただ遊んでいるようだ。




しかし実際は…















コトリ…






『おーしまい☆』













時計を回収する為の殺しなのだ。



女の子は手に入れた時計を空に翳す。


『よーし!ユリウスのところに帰ろ☆』






















「あれーもう終わっちゃったのかー?」




声を上げながら茂みを掻き分けて出てきたのは…












『エース!!クフッ遅かったねっ☆もう僕が殺っちゃったよ?ほらほら、凄いでしょ?』


仮面を付けて、マントを羽織ったエースだった。

エースはハートの騎士。しかし、この格好をしているエースはただのエース。






「うわーいつ見てもクロックの殺り方はグロいなぁ、この辺とか真っ赤だぜ?」


時計が落ちていた場所は草が赤く染まり、クロックの服も返り血に染まっていた。





『どーせ時間が経てば元通りになるんだからいーだろー?』



「まぁね。…はぁ……俺ならもっと綺麗に出来るのになー、クロックっていつも来るのが早いからさ」





『当たり前!!だって自分の手でヒトを時計に出来るなんて遊び、愉しくて譲れないよ☆…例えそれがユリウスの使いで来たエースでもね?だってこれは……………僕の特権でもあって、仕事なんだから…』







にこにこしている裏で、黒い笑みを浮かべたクロック。


一体彼女はこれまでに何人の顔なしを時計にしてきたのだろうか…








「………じゃあ俺も今からユリウスのところに行くし、一緒に行く?」




エースの言葉を聞くと、またふにゃりとした顔に戻ったクロック。


『いいぜー!!僕も帰るところだったし☆クフッ、ユリウスにいっぱい時計を渡そう!』




「ははっ、またユリウスは暫くは引き篭り生活だな」




『またってゆーか、ユリウスは毎日引き篭りだよー?』




そんな会話をしながら、2人は時計塔に向かった。



***



ドンドンドン
ドンドンドン











『ユーリーウースー』





リズミカルに叩かれているのは、時計塔のドア。




「………」



ドンドンドン
ドンドンドン



「ユリウスー」


「……」



ドンドンドン
ドンドンドン



『ねーユリウスー』


「…」



ドンドンドン
ドンド…








ガチャッ


「煩いぞ!!さっさと入れクロック!エース!」







煩さに耐えられなくなった時計塔の主、ユリウスは怒鳴りながらドアを開けた。


『開いた開いた!もう遅いよユリウス☆せっかく僕が帰ってきたのに』

「俺もいるけど!」



「…」




「あれー?ユリウス、眉間に皺が寄っているよ?」



「お前達が煩いからだ。それにさっきペーター=ホワイトがやらかしてくれたからな……私は今機嫌が悪い」





『「やらかした?」』


その後、2人がしつこくユリウスに何があったか尋ねた為、ユリウスは仕方なく今さっきの出来事を2人に話した。























「…ということだ。全くあいつはろくなことをしない」



「へー、ペーターさんがね……」





『決めた!!僕その余所者さんに会いに行ってくる』



「クロック!?待………」



ユリウスの声も聞かず、クロックは時計塔を飛び出していった。












「ま、あれがクロックだよな」


「はぁ……」






























時計塔を飛び出したクロックは、余所者を捜して自由気ままに歩いている。








『さーて余所者さんはどっこか…』



「離して!!」





『な?』





すると、いきなり大きな声が聞こえた。


クロックが声がした方を見ると、見たことのない女の子が2人の顔なしに襲われている。






『んーー?………!!!あの女の子…顔がある…』





そう、この世界では役があるものには顔があるが、何も役がないと顔がなく、それらの人は“顔なし”と呼ばれているのだ。



『…………分かった!!きっとあの子が余所者さんなんだ☆』








クロックはにやりと笑みを浮かべると、腰から短刀を抜き出し、まっすぐ走り出した。












「嫌だって言ってるでしょ!?」



「黙ってついて来い、さっきお前が帽子屋屋敷から出てくるところを見たんだ」




「君は帽子屋と知り合いみたいだからね、ちょっと人質になってよ」



「嫌!」


女の子が連れていかれかけた瞬間………










シュッ



『クフッ☆……ねぇ、その子をどこに連れて行く気なのかな?』


「え?」







「!!お、お前は………」



「「管理者!!」」


















『…僕、誰かにその名前呼ばれるの嫌いなんだよねー』



自分の持つ二つ名を呼ばれたクロックはつまらなそうに、冷ややかな目で顔なし達を睨む。


「あ、あの…」







『あー、お初な人にはちとキツいよね☆ってことで……ちょっと目を瞑ってもらうぜぇ☆』


「え」


クロックは女の子の目を素早く布で目隠しすると、顔なし達の能面ような顔に短刀を滑らせた。








「くっ……うおおぉぉ!!死ねぇぇ!」


「!、おい…」



1人の顔なしが素早く反応しクロックに向かってくる。


しかし…














『……死ね』



シュッ




ザクッ











「「ぐあぁっ……!!!!」」



残酷な言葉を小さく吐き捨てたクロックは、無表情な顔をし、いとも簡単に2人の顔なしを時計にしてしまったのだ。







『ふん』


















“管理者”








クロックの持つこの役の仕事は、この世界にある時計の所有権を持つこと。


時計を生かすも壊すも、それは全て、彼女の自由。











そしてこの役を持つクロックは……







「あ、あの……もう取っていいかしら?」



『!、あ、うん!もう終わったし…取っていいよ☆』








しゅるりと目隠しを外した女の子は、キョロキョロと辺りを見回している。

そして、さっきの奴らがいないと分かると、クロックに向き直った。







「…あ………ありがとう、助けてくれ……きゃあ!!あ、貴方それ…」


『ん?………あれ☆』





クロックが自分の左胸を見ると…丁度心臓、いや…時計がある場所に、太めのナイフが突き刺さっていた。


どうやら顔なしに刺されていたらしい。










「あ!ど…どうしたら!し……止血しなくちゃ!」


女の子はあたふたしているが、当の本人は全く動じていない。

そして、その口からは驚きの言葉が放たれる。








『クフッ☆大丈夫だよお姉さん!!だって僕………』


























死なないから。


















そう、“管理者”という役を持つクロックは……






ある条件を満たさない限り、決して死ぬことがない。





代わりはいない、

いや、代わることは出来ない。







クロックの時計は動くことはなく、一生その場に留まり続けるのだ。






そしてこれは…



“管理者”であるクロックの……定めでもある。



(ねぇねぇ、お姉さんの名前は?)
(あ、私はアリス=リデル)
(アリス…クフッ可愛い名前だね☆)
(ありがとう、貴方は?)
(僕?僕はね…クロック。クロック=フォーエバーだよ)





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