小説

□第〇話『テヅカーの休日』
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悪の軍団テヅカーを名乗り地球を征服しようとやって来たのにも拘わらず、ビッグストーンマンという邪魔者が現れてから己の地球征服の計画が狂い始めた。
毎度の如く邪魔をして、サダハールを仕向けても当然のように負かしてしまうため、破壊活動も一向に進まない。
では、どうするべきか?ビッグストーンマンがいる限り、街で暴れてもすぐに止めに入るのだからやはり早々に奴を排除しなければならないのが妥当だろう。
そのために少しでも奴の正体や弱点になりそうなものがないか探ることに決めた俺は本来の自分を偽り、とある学校へ潜り込んだ。

潜入して数ヶ月、これといった情報もないため、そろそろその学校から離れるかと思った矢先、休日の街の中を散策していると声をかけられた。

「手塚!」

騒々しい人混みで煩わしい中、声をした後ろへ振り向けばそこには同じクラスの大石の姿があり、駆け寄って来た。
この数ヶ月、いつの間にか俺はそいつと友達という関係になっていたらしい。

「大石か」
「奇遇だな。何してたんだ?」
「…何というわけではないが、散歩だな」
「じゃあ、暇だよな。少し俺に付き合ってくれないか?」

眉を寄せて何故だと問えば、大石は照れくさそう笑いながら頬を指で掻く。

「今日さ、俺の誕生日で家族がパーティーの準備するから家を出ててくれって言われてさ。とはいえ、一人じゃなかなか時間を潰せなくて…」

他人と関わりたくない自分からしてみれば面倒なことこの上ない。そもそもこの大石と言う奴は転入してから何かと俺に話しかけ、遊びに誘い、世話を焼く。好きで一人になっているというのにそれを見かねて関わろうとしたのだろう。きっとそれが奴の性分に違いない。
本当ならば何処かでサダハールを使い、暴れさせようとしていたが、どうせ長い時間ではないだろうから気まぐれにOKを出した。

何処に向かうわけもなく、二人並んで散歩する。会話はほとんど大石から始まり、俺は何度か受け答えをするだけ。だからといってずっと喋りっぱなしのマシンガントークではなく、会話の区切りがついたら少し黙り、暫くしてからあの店はあぁだとか、そういえばこの前クラスでとか、話が始まる。

「手塚は何処か行きたい所はないのか?」
「ないな」
「このまま真っ直ぐ行くと湖のある公園なんだけど、そこで一休みしないか?」

特に断る理由もないため「あぁ」と、ひとつ頷いた。

辿り着いた公園は広く、木々が沢山生息していて鳩も何羽か辺りを彷徨き、時たま鳴き声を聞かせる。場所によっては芝生や砂利道などあり、いくつかの遊具も存在していた。
子連れもいれば小学生がサッカーをして駆け回り、恋仲の者達が楽しげに歩いている姿も目撃する。そこの中央には大きな湖もあって陽の光に反射して輝く湖を満喫しているのか、ボートを漕ぐ若者もいた。その何台かは白鳥の形をした足漕ぎボートのようだ。

誰もが楽しんでいるこの緑の多い公園を潰してしまえば、どれだけの人間が嘆き悲しむだろうか。
数多くの悲痛な表情を思い浮かべては己の中の野望が黒く渦巻き、一人小さくほくそ笑んだ。

「あ。あそこ空いてるみたいだから座ろうか」

と、大石が小さく指差す方には湖を眺めるためにあるウッドベンチがあった。二、三人くらい座れるベンチで俺が先に座ると大石も空いている右隣へと腰掛ける。
四月終わりの少しばかり暖かい風がさらさらと木々の葉を揺らし、頬を撫でるがなかなか心地良い。
僅かながら子供のはしゃぐ声が聞こえるものの、風に掻き消されるようだったのであまり気にならなかった。そして風によって運ばれ香る緑の匂いは心を落ち着かせる。
ベンチに座った先に映る湖は太陽の光により宝石のようにキラキラ輝き続け、いつまでも見ていたくなった。

「そういえば、手塚の誕生日はいつ?」
「俺の誕生日……」

唐突に訊ねられる己の誕生日に一瞬いつだったか忘れてしまい、間を空けた後に10月7日だなと返すと、奴はそっかぁと呟く。

「まだまだ先なんだな」
「だからどうした」
「んー。いや、プレゼントを何にしようか考える時間は沢山あるなーって思ってさ」

思わず目を丸くしたのかも知れない。そもそも、自分の誕生日だからといってどうこうしたいわけでもないし、祝ってもらいたいわけでもない。

「そんな物はいらない」
「そんなこと言うなよ。友達なのにさ」

友達になったつもりはないと返そうとしたが柔らかく微笑む顔を見てしまえばそんな気がなくなってしまい、ひとつ溜め息を零す。

「勝手にしろ」
「あぁ、勝手にするよ」

にこにこ笑うが何が楽しいのだろうか。いまいち奴の考えが理解出来ずに湖へと視線を移す。

ーー調子が狂う。

まるでビッグストーンマンに邪魔をされたかのように感じる。
こんな時でも奴を思い出すなんて忌々しい。

「…手塚?」
「待っていろ」

いつの間にか立ち上がった俺はそのまま大石を置いて歩き出す。どうやら追って来るような足音もなければ気配もないので言われた通り待っているのだろう。
…さて、このまま奴を置いて何処かへ行こうか、それともこの公園でサダハールを使うか。
誕生日の日に酷い目に遭ってしまったら大石もさぞ悲しむことだろう。

想像してみると進めていた歩をその場に止めた。
…おかしい。奴の悲しげな表情を思い浮かべて見ると何故だか分からないが、全く面白くなかった。むしろ不愉快である。
どんな奴の嘆き悲しむ顔は俺の楽しみでもあるのに、おかしい。

やはり、調子が狂っている。大石のせいか、ビッグストーンマンのせいか。
小さな胸の痛みが感じるのもよく分からない。体調を崩してしまったか?

「……」

胸を掴んで暫くした後、踵を翻した。



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