小説

□レインブルー
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その日の授業も終え、一度帰宅した後に俺は私服に着替えて再び家を出た。本来ならば大石と書店に寄ってもらい、途中何処かへ寄って誕生日プレゼントになりそうな物を奢るつもりだったのだが、その予定もなくなってしまったので一人で書店へと向かうことにした。

だが、せっかく訪れた書店には欲しかった本も売り切れ、代わりとなる目ぼしい本も見つけることが出来なかった。溜め息をひとつ漏らし、俺は諦めて家に帰ることを決める。

外へと出てみればいつの間にか土砂降りの雨が降っていた。雨が降る気配なんてなかったのに。そう思っていたのは他の者も同じだろう。だから傘を持つ人が少ないため、この雨の中を鞄で頭を濡らさないようにして走り抜ける人もいれば諦めてとぼとぼ歩く人も見られる。もしかしたら通り雨かも知れないし、さすがに濡れたくないため書店の前で雨宿りすることにした。いつの間にか薄暗くなっている空を見上げてもう一度溜め息を吐く。


(…今日はツイていないな)


そう思わずにはいられなかった。そしてふと大石のことを考える。大石はもうケーキを食べ終えた頃だろうか。誕生日を祝ってもらって嬉しそうに笑っているのだろうな。
考えれば考えるほどあいつの誕生日を共に過ごすことが出来ないことに悔しく思う。

すると、雨の中をバタバタと走る人物が俺と同じく雨宿りするらしく、隣で立ち止まった。男性かも女性かも分からないが他人をジロジロ見るのは失礼に当たるため然程気にしてはいなかった。そして、隣の人物が雨宿り出来て安心したのか安堵の溜め息が漏れる。だが、その息遣いは俺のよく知っているもので一瞬胸が高鳴った。聞き間違うはずがない、微かな期待を持って隣に目をやれば俺の一番会いたい人物が額を拭っていた。


「大、石…?」

「え?あっ、手塚!」


半信半疑ではあったが、まさか本当に大石がいるとは思ってもいなくて思わず目を丸くさせる。だが、彼が雨に濡れているということに気付き、俺はすぐに自分のハンカチを取り出した。


「そんな状態では手持ちのハンカチも濡れて使えないだろう」

「あぁ、すまない手塚。英二達と別れた後に急に降られてさ…参ったよ」


はは、と小さく笑いながら俺のハンカチを受け取り、額や顎など濡れた肌を拭う。ポタポタと髪や袖からも伝い落ちる水滴に余程濡れたことが窺える。このままでは風邪を拗らせてしまう恐れがあると思ったと同時に全身濡れた姿の大石に妖艶さも感じた。だが、そんな目で大石を見るのは何処か後ろめたくなり、彼から目を背ける。


「…そういえば、ケーキは食べたのか?」

「食べたよ。凄く美味しくて何だか勿体無いくらいだったな。皆にも誕生日を祝ってもらって幸せ者だよ、俺は」


雨に降られたというのにこうも喜ぶのはやはり誕生日だからか。だが、俺としても偶然とはいえそんな日に大石と会えたことを嬉しく思う。


「手塚は本屋に寄っていたのか?」

「あぁ、欲しい本はなかったがな…」


その代わりお前に会えた…とまでは、さすがに言えないのでそれ以上は口を開かなかった。


「それは残念だったな」

「仕方あるまい」

「それにしても雨早く止むといいな?」


大石の言葉にひとつ頷く。雨の勢いはまだ弱くはならないが、このまま止まなければ大石ともっと一緒にいられるのかも知れないと思ってしまった。
そんな邪念を捨てようと軽く頭を横に振る。すると大石の肩が屋根からはみ出て濡れているのに気付いた。


「大石、濡れてしまうぞ。もっとこっちに寄れ」


ただでさえ身体が冷えてるだろうにまた濡れてしまっては大変だ。
大石の肩を俺の方に寄せて濡れないようにする。


「え、あ、ありがとう」


戸惑い混じりの声が聞こえて、そこで俺は気付いた。友人にここまでするのはおかしいのではないか?だが、してしまった今どうしようもない。


「…すまない、不愉快だったか?」

「いや!そうじゃないんだ。ただ、びっくりしただけで……あ!手塚、雨が弱くなってきたぞ。もうすぐ止みそうだなっ」


確かに先程よりかは雨は弱まってきたが、話の逸らし方が不自然な気がした。やはり口では言わないが、あまりいい気分ではなかったのだろう。少し気を付けなければ。



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