小説
□月夜の幻影
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負け組が勝ち組の知らない場所で秘密の特訓を受けている日々の中、本日もそんな厳しい特訓に耐え、日の落ちた寝床である洞窟の中では大事なレギュラージャージを奪われTシャツ姿の大石が泥だらけで座り込み大きな溜め息を吐き出していた。
「元気なさそうじゃの、タマゴ」
そんな彼の前に現れたのは立海の仁王雅治。唐突に話しかけられた大石は驚きながらも慌てて首を横に振る。それもそのはず、仁王に話し掛けることは勿論のこと、話し掛けられることすら今までない方であった。特別仲が良いわけでもなく、むしろその逆で大石からすれば若干苦手な相手でもある。人を騙すことに長けている仁王と優しく他人を信じやすい正直者の大石と一緒にいればどうなるかなんて誰でも分かることであった。
「えっ?いや、そんなことはないぞ?」
「…ほぅ、そうかい」
警戒してるからなのか、溜め息の理由を吐かない大石は何もないとはぐらかした。仁王もそれ以上は聞き出そうとは思わなかった。
「それならそんな辛気臭い顔は止めてとっとと寝るぜよ」
「あ、あぁ、そうだな」
時計がないため時間の感覚は分からない。周りは既に眠っている仲間も多いため、大石は近くにあったランプの蝋燭の火を吹き消して明かりを無くした。唯一洞窟内を照らしていた光が消えて真っ暗であったが、少しずつ目が暗闇に慣れてくると外の星空の明るさにランプがなくとも洞窟内を優しい夜の明かりが差し込む。
そして薄い掛け布団を身体に掛けて大石は目を閉じた。