小説

□運が良いとか悪いとか
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(…勢いで外に出たけど、手塚を見つけるのは結構難しいよな…きっと)


家を出て暫く当てもなく歩くと10月の少し冷たい風を浴びて冷静になったのか、先程までのその場の勢いの行動に思わず苦笑してしまう。
今日は日曜日だ。街は休日を過ごす人で賑わっているのだからそんな中で手塚を捜すなんて少し無理があった。大人しく家に帰って手塚から連絡があるのを待った方が良かったかも知れない。けど、待った所でやはり一刻も早く手塚に会いたいという気持ちが溢れるため冷静になった所で俺が外へ出て手塚を捜すことには変わりなかったのだろうと考える。


(何処を捜そうかな…)


手塚のお母さんはラケットを持っていなかったと言っていたのでテニスコートがある場所にはいなさそうだ。それならば彼女が予想していた図書館に行ってみようかな。当てもなく捜すよりかはいいかも知れない。

こうして俺は手塚とよく行く図書館へと向かった。


「あっ…」


その途中、俺のいる反対の歩道からとても見慣れた人物が歩いてるのを見つける。
手塚だ。紛れもなく手塚が一人で歩いている。図書館とは逆方面を歩いてるため、図書館には行かなかったのか、それとも既に寄った後なのかは分からないが、すぐに彼を見つけたことはこの上なくツイている。手塚の名前を呼ぼうと思ったが車道と休日のせいか沢山通る車のせいで彼を呼んでも聞こえないだろうと気付く。それならば見失う前に向こう側に行かなければ!俺は10メートル先の横断歩道まで走ったが、赤信号なためすぐには渡れずにそわそわしながら信号の色が変わるのを待った。あまり気にしてはいなかったがこういう時だけやけに長く感じる。
車がよく通るので手塚が見えなくなっていく。早く変われ早く変われと祈りながら横断歩道の信号はようやく安全の青色に切り替わった。それと同時に俺は走り出し、ようやく手塚のいる歩道へと渡って来たが人が多くて既に手塚の姿はなくなっていた。


(でも、まだこの近くにいるはずだよな…)


早足で周りをキョロキョロと見渡しながら手塚を捜すと一軒の書店の前で俺は足を止めた。
もしかしたら手塚は店の中に入ったのかも知れない。そう思い俺は書店へと足を踏み入れた。小さい店でもなければ大きい店でもない中間ぐらいの店舗であるため中を捜すのはそんなに時間を要しない。
だけど、俺は気付かなかった。俺が入って少し後から手塚がその店を出たことに。そうとは気付かない俺は店内をくまなく捜したが手塚の姿を見つけることが出来なかった。軽く溜め息を吐き、俺は仕方なく書店から出る。


(ここにはいなかったか…)


せっかく近くにいたのに見失うなんて残念すぎる。
次は何処へ行こうかと辺りを見渡すと再び手塚の姿を捕らえた。 ちょうど横断歩道を渡っている所なため今追いかければ間に合うはず。
よし、と思って俺も横断歩道を渡るため走り出そうとしたその時、ドサドサと隣で物が落ちる音が聞こえた。ふと、そちらを見てみれば主婦らしき女性が買い物袋を落としてしまったのか、買ったであろう品物が辺りに散らばる。俺は思わず落ちた物を拾い始めると慌てふためきながらも女性が何度もお礼を言ってくれた。全部集めた頃になって俺はハッと手塚のことを思い出し、横断歩道を見れば手塚の姿は既に見えなく、信号も赤になってしまったため、また彼を見失ってしまった。俺はがくりと肩を落とす。

それから手塚を捜し始めるも運が良いのか悪いのか、手塚の姿を見つけたと思えば迷子の子供に遭遇したり、人に道を聞かれたりして何度も彼を見失う。いや、やはり運が悪いのだろうか。
そんなことを繰り返してる内にあっという間に夕方になってしまった。手塚も見つからなくなったし、さすがにくたくたになってしまった俺は近くの公園に寄り、ベンチで休むことにした。


「はぁ…」


思わず漏れる溜め息。そりゃそうだ。何度も手塚と会えるチャンスがあったのにも関わらずそれを無駄にしてしまったのだから。
俺の横にちょこんと置いてあるプレゼントが入った紙袋を横目で見つつ、さすがに手塚ももう帰っただろうかと考え再び彼に電話しようと携帯を取り出した。


「大石じゃないか」


そんな中聞こえてきた声に俺はハッとして顔を上げる。


「て、手塚…?どうして…」


そこには書店で買ったであろう本が入ってる茶色い袋を手にする手塚が立っていた。思わず瞬きを繰り返す。


「今日は1日色々と見て回っていた。その帰りだったんだが、お前の姿が見えたのでな」

「そ、そうか」

「お前は何をしていたんだ?」

「えっと…俺は…」


あまりにも突然だったので何て言えば良いのか分からなくなった。だけど、ようやく手塚に会えたんだ。今日彼にこれを渡さなきゃ。
そして俺は手塚にプレゼント入りの紙袋を差し出した。


「…これは?」

「ハッピーバースディ。誕生日おめでとう、手塚」


にこっと笑いながら祝いの言葉を伝えると手塚は暫く間を空けたあとに「あぁ」と納得の声が聞こえた。


「俺の誕生日か…」

「なんだ、気付いてなかったのか?」

「そのようだな」


なんだよそれと思って笑うと手塚は俺とプレゼントを交互に見て、ぽつりと呟いた。


「…もしかして、これを渡すために俺を捜していたのか…?」


申し訳なさそうに眉を下げる手塚。それがまた可愛かったんだけど、我慢して口にはせずに飲み込んだ。


「携帯電話持ってなかったみたいだし、捜すのは大変だったよ。でも、こうしてお前に会えて良かった」

「すまない。…だが、明日でも良かったんだぞ?」

「誕生日プレゼントは誕生日に渡すもんだろ?」


まぁ、手塚だからって言うのもあるけど。


「そうか…。ありがとう、大石。わざわざ俺のためにすまない」

「何言ってるんだよ。俺はお前が好きなんだし当然だろ?」


好きと言っても手塚にとっては友情でしかないんだろうな。まぁ、多くは望まないし、今でも幸せな俺は腰を上げた。


「じゃあ、そろそろ帰ろ…」


手塚の顔を見た瞬間、俺は言葉と動きがぴたりと止まった。何故なら、手塚が顔を赤くしてるからだ。


「て、づか?どうしたんだ?」

「どうもこうも…お前があんなことを言うから……いや、何でもない」


ふいっと顔を背ける彼に俺はまさかと自分の言った言葉を思い出す。俺が好きと言ったことに意識してるのだろうか。それだったら手塚は…と少し期待してしまう。だから俺は確認のためにも「手塚」と声を掛けて言葉を続けた。


「そんなお前も可愛くて好きだよ」


手塚の顔の赤みは増していった。



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