小説

□運が良いとか悪いとか
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10月7日、今年は日曜日。部活はないけど手塚の誕生日を祝うには十分すぎるほど時間がある。この日のためにプレゼントだって用意したんだ。


「喜んでくれるかな」


目覚まし時計の隣に何日も前から置いてある手塚への誕生日プレゼント。小さな箱に白い包装、青色のリボンと誰がどう見てもプレゼントだと分かるもの。それを見ては手塚に誕生日祝いの言葉とプレゼントを渡した時のことを想像して一人小さく笑った。

本当は誰よりも先に彼の誕生日を祝いたかったけども、俺は手塚の親友であり、それ以上でもそれ以下でもない。だから一番に祝う権利だってないんだ。俺が手塚に親友以上の気持ちを抱いてもだ。
でも、告白するつもりもない。俺は今のままでも十分に幸せなのだから。

時間は11時30分を過ぎている。手塚は今頃何しているだろうか。そろそろ電話をしてもいい頃合いかな。プレゼントを渡して、もし時間があるようならば何処かに出掛けるのもいいな。

携帯電話を手に取り、休日でも早くに起きてるだろう手塚の番号を発信する。部活以外でのプライベートな用事で電話をすることはあまりないため少しドキドキした。彼が電話に出るのを今か今かと待ち焦がれていたが、思っていたよりもコール音が長く「あれ?」と思ってしまう。そして暫くしてから留守電のアナウンスに切り替わった。特に留守番電話に残すことはなくそのまま切った俺は思わず首を傾げた。
まさかこんな時間まで寝てるわけじゃないだろうし…。もしかして携帯電話を近くに置いてなかったのかな。それかバイブレーションに設定して気が付かなかったとか。あぁ見えてちょっと抜けてる所があるからな、手塚は。

このまま手塚から折り返し電話やメールが来るのを待ってもいいが、下手をすれば夕方以降まで連絡がないのも有り得る。手塚はそんなに携帯電話を頻繁に確認するわけじゃないから俺から着信があったのを気付くまで時間を要する可能性もなくはないんだ。
それにせっかくの日曜日だ。早く手塚に会いたいっていう俺の個人的願望が大きい。
少し迷ったが今度は手塚の自宅へと電話をかけてみることにした。すると今度はすぐに電話が繋がり、電話の向こうから女性の声が聞こえた。


『はい。手塚です』

「あ、もしもし。僕、国光くんの友人の…」

『あら、大石くんね。こんにちは』


名前を名乗る前に電話に出た女性である彼の母親が先に俺の名前を言い当てた。手塚の友人=俺という彼女の方程式に少しばかり嬉しく思いながらも俺も「こんにちは」と挨拶する。


『ごめんなさいね、国光はついさっき出掛けてしまったの。それに携帯電話も忘れてっちゃったみたいで…』

「あ、そうなんですか…。あの、何処に行かれたか分かりますか?」

『色々と見て回りたいと言ってただけで場所までは分からないの。でも、ラケットは持っていなかったしあの子のことだから図書館とかに行ってるかも知れないわね』

「分かりました。ありがとうございます」

『いいえ、こちらこそ気が利かなくてごめんなさい』

「いえ、そんなことありません。ありがとうございました。それでは失礼します」

『えぇ、またね。大石くん』


そこで俺は電話を切った。相変わらず手塚のお母さんは優しいな。


「…と、こうしちゃいられない」


手塚が何処かに出掛けて、しかも携帯電話を不所持という連絡の取れない状態。これではいくら待っても時間が勿体無い気がした俺は手塚を探しに行くことにした。外に出る支度をし、もちろんプレゼントも忘れないように小さな紙袋の中に入れて持って出た。



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