小説

□きっと落ちてしまった
2ページ/3ページ


「大石っ!聞いたぞー。お前、今度デートするんだって〜?」

「は?デ、デート?何のことだよ」


またある時、ジャージに着替える途中の部室内で英二が背中から飛び掛かって来た時があった。


「しらばっくれても無駄だよん。昼休みに女子と待ち合わせする話聞いちゃったもんねー」

「あ、あれは一緒に勉強しようって話でそんなんじゃないぞ」

「勉強って…お堅いデートだなぁ」

「だから違うんだって!」


英二の誤解を解こうとしたその時だった。


「大石!菊丸!部室内で騒ぐな!」


……しん、と辺りが静まり返った。みんな手塚に注目するが、手塚は俺と英二に目を向けていたわけではなく、自身のロッカーの前でちょうど着替えを終えていた所だった。手塚が怒鳴ること自体は珍しいことではないが、それらは外での方が多い。部活中ではない部室で彼が怒るのは初めてに近かったのかも知れない。だから他の部員も少し驚いていた。だが、それより何より俺が手塚に怒られたことの方が一番驚かれたのかも知れない。何しろ俺自身もそうだからだ。
俺が手塚を怒らせるのだから余程のことだろう。手塚を支えたいのに手塚に迷惑をかけてしまった。


「ちぇっ、なんだよ手塚の奴。彼女いないからって僻むなっての」

「英二…手塚がそんなことで怒るわけないだろ」

「はいはい。また怒鳴られたくないし黙ってまーす」


機嫌を損ねてしまった英二に小さな溜め息を吐き出すとズキズキと胸が痛むのを感じた。思わず胸元をぎゅっと掴む。

手塚の機嫌が悪いのか、それとも俺が彼に何かしてしまったのか、俺に対する手塚の態度がやはり変わりつつある。
…もしかして、手塚は俺のことが嫌いになってしまったのだろうか。

一度考えてしまったらそればかり頭の中をぐるぐるする。その後の部活は俺が一方的にギクシャクした。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ