小説

□友情として<愛情として
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“不二周助”


あいつが電話をするなんて珍しい。いや、おかしい。そして今度は一体何を企てているんだ。
もう、あいつに振り回されるのはごめんだ。

この電話に出ようか出まいか悩んだが、もしかしたら大石の身に何かあったのかも知れない。それを告げるための連絡だとしたら…?
その可能性があるため俺は通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。


「…もしもし」

『僕の名前を見た途端、出ようか迷った挙げ句、大石についての話かも知れないと思って渋々電話に出たという所かな』


通話最初の一声が、さも近くで見ていたかのような俺の行動、心理を見透かした内容に更に眉間の皺が深くなった気がする。そんな奴の言葉に肯定も否定もするわけでなくすぐに本題に移った。


「何の用だ」

『大石、結構辛そうだよ』

「大石に何かあったのか?」


電話越しでも分かるほど、深刻そうに話す不二の言葉に胸の中がざわめき始めた。


『部長代理というプレッシャーと誰よりも心配性な性格が相俟ってか、疲れが溜まってるみたいだよ』

「倒れたりはしてないんだな?」

『そうだけど、時間の問題なんじゃないかな』


一先ず今は大丈夫そうだが、不二の話を聞けば安心は出来ない。いつ倒れてもおかしくはないと言うような状態に俺は返す言葉が思い付かない。


『ねぇ、なんで連絡してあげないわけ?』

「…俺が、大石にか?」

『当たり前じゃない』

「大石は自ら連絡すると俺に言った。だから俺からではなく、大石から俺に連絡するはずだ」


そう伝えると不二から嫌みたらしいくらいの大きな溜め息が吐き出された。


『…大石は絶対に自分から連絡しないよ。どうしてか分かる?』

「どういう意味だ」

『大石は君に治療に集中してもらいたいから連絡しないんだよ』

「……」


不二の言葉に納得した。
大石がいつまで経っても連絡しない理由。いかにも大石らしくて俺は…何とも言えない気持ちになった。決して悪い意味ではない。ただ、なんて言葉に現したら良いのか分からない。こんなに心臓が締め付けられたかと思うと暖かく、心地良くなる感情をなんと言えばいい?


『ほんと、優しいよね。こんな自分へ向けられる気持ちを知りながらも友達面をする残酷な堅物の男の何処が良いんだか』

「…大石も俺もそれを承知している」

『でもさ、いつまで大石を解放しないつもりなの?このまま大石に新しい恋愛させないのかい?それでよく親友だって言えるね。むしろ大石のことが憎いの?』


一気に捲し立てるように俺を責める不二に俺はすぐに反論した。


「憎いわけないだろ。それに解放とはどういう意味だ」

『そのままの意味だよ。友人として大石の傍にいることがどれだけ彼を期待させ、どれだけ傷付けるのか君はまだ理解出来ないのかい?前にも言ったけど君は残酷すぎるよ、手塚。早く大石から離れなよ』

「お前がそこまで言う権利はない」

『…あのさ、手塚。どうしてそこまで大石にくっついてるわけ?』

「そんなの決まっているだろう…」


“親友だからだ”


「……」


どうしてか、そう言いたいはずなのに口が動かなかった。だが、俺が理由を考えるよりも先に不二が口を開く。


『…とにかく、大石に連絡入れてよね。大石が倒れたら君のせいだから。…本当なら僕が何とかしたい所だけど大石は君と話す方が元気になるそうだからね』


そう言い残し、ブツッと一方的に電話は切れた。結局、奴は俺に喧嘩を売りに電話したのか…いや、大石に連絡しろというのが奴が俺に伝えたいことなのだろう。だが、不二にしてはわざわざそれを告げるために連絡するのは珍しい。…やはり大石が好きだから、なのか。



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