小説

□友情として<愛情として
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関東大会決勝戦にて氷帝との試合で俺は肩を壊した。そうなる前に誰もが俺を止めようとしていたが、大石だけは俺の我儘を聞いてくれた。そしてこんな俺に誰よりも悲しんでくれた。


「すまない、手塚…。こうなる前にやっぱりお前を止めておけばこんな事には…」

「何故、お前が謝る必要がある。むしろ試合を再開させてくれたことに感謝してるくらいだ」

「だけど、九州で治療しなきゃいけないだろ。一緒に全国制覇するはずだったのに…」

「全国大会までには必ず戻る。だから暫くの間、青学を頼む」

「…あぁ、分かったよ。俺がお前の分まで頑張るから早く戻ってくるんだぞ…待ってるから」


そう言って俺のために一筋の涙を流す大石は酷く艶めいていた。


「必ず守ってみせるから…」


鼻のすする音を出して笑って見せる大石。だが、何をしても今の大石は色めかしく見える。そんな彼の色香に惑わされたのか、俺は大石の手を引き、胸の中に収めた。
いつだったか、こうして大石を抱き締めた時と同じようにシャンプーの香りがした。

そして二人の空間となった部室で大石を抱き締めたのを最後に俺は九州へと飛んだ。


九州での治療は順調であった。だが、ひとつ気掛かりなことがあり、心ここに在らずな状態である。


『メール、するからな』


大石のたった一言、それを聞き九州に滞在すること早一週間。大石から連絡は、ない。

窓の外は空一面に赤が広がる。時間帯的に部活が終わって間もないといった所だろうか。そんな部屋の中、机の上に置いた携帯をただただ椅子に座って見つめる俺は大石が連絡しない理由を考えてみた。

最初は忙しいのだろうかと思った。部長である俺を支えてくれた彼に沢山の仕事を押し付けてしまい、心の底から申し訳ないと感じた。だから大石が望むなら悩みを聞き、アドバイスだってしてやるつもりだった。
だが、連絡がないと言うことはその必要がないと言うことなのか。


(乾に大石の手を貸してくれと頼んだからな…)


大石一人で部長、副部長の業務に追われるのは誰が想像しても大変である。そのため、俺は乾に手伝いを頼んでいた。…どうやら俺の予想を遥かに上回るほどの仕事ぶりで大石の手助けをしているのかも知れない。
だが、それならば俺に連絡する余裕もあるのではないのか?俺のことが好きだと言っていたのなら尚更。

それとも、俺と連絡を取るのを避けているとでも…?


「……」


非常に不愉快だ。

俺の手助けもいらなければ、連絡すると言っておきながら連絡も寄越さないなんて、一体どういうことだ。

苛立ちが沸き上がる中、机に置いていた携帯が震えだした。マナーモードに設定してるため、音は鳴らないが俺一人しかいない静かな空間の中ではその振動も大きく聞こえた。

大石か?そんな期待を胸に抱きながら俺は慌てて携帯を手に取り、液晶画面を確認する。そしてこの携帯を鳴らす人物の名を見たと同時に俺は眉を寄せた。



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