小説

□思い出の札遊戯
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あれから2年。色々とあったが、俺は大石と付き合える関係になっていた。


「……大石」

「ん?」


だが、何を思ったのか部活終わりのミーティングも終えて、いざ帰ろうとした矢先、大石が「ババ抜きやろっか」とあの頃と変わらない笑顔で言われたので俺は戸惑いつつも頷くしかなかった。
ゲームを始めてすぐに俺は奴に疑問をぶつける。


「…二人でババ抜きをしてもつまらないだろう」


俺の手札にはババと呼ばれるジョーカーがない。つまり大石がジョーカーを持っているのが分かってしまうためババ抜きの楽しさが半減したようなものである。


「んー。俺は楽しいよ」

「…そうか」

「そういえばさ、1年の頃にババ抜きしたの覚えてるか?あの時の手塚凄く可愛かったなぁ。カードの表裏が逆だったり、カード引く相手を間違えたりしてさ」


くすっと笑いながらも思い出して欲しくない思い出を語る大石に俺は何も言えず淡々とトランプを引くことしか出来なかった。


「俺さ、あの頃から手塚のこと意識してたんだ。可愛いなぁって」

「お前はそれしか言えないのか」

「だって事実なんだしさ」

「もう、昔みたいな失態はないぞ」

「そっか、それは残念だな。前みたいに慌てふためく手塚が見れると期待してたんだけどな」


いきなりババ抜きを誘った理由はそれか。

口にしようかしまいか考えていると、いつの間にかゲームは終盤を迎えて大石のカードは残り2枚、対する俺は1枚。クローバーの9を手にしている。
大石の持っている物のどちらかが9とジョーカーであることは言わずとも分かっている。そして俺は大石の持つ2枚の内の1枚を引いた。


「上がりだ」


引いたのはハートの9だった。ペアになった2枚を表に向けて出すと大石もジョーカーをその場に出した。


「あーぁ、負けちゃったよ」

「これで満足か?」

「そうだな。でも久々にやると楽しいよな。今度は七並べとかどうだ?大富豪も良いな」

「…また今度で良いだろう」


特技と言っても過言ではない大石の笑顔にうっかり流されそうになるがこのまま続けているとまた何かやらかしてしまうんじゃないかと若干の不安を覚えた俺はこれで打ち止めにすることにした。


「…手塚ってさ未だに俺の前で緊張してるんだな」

「何故だ」

「あまり気付いてないかも知れないけど手塚って10秒以上俺を見つめること出来ないんだよな。目が合うと然り気無く逸らしたりしてるしさ」

「そんなことは…」


ない。と言い切ろうと大石に目を向ける。だが、ジッと見つめ続ける大石に恥ずかしくなった俺は奴の視線から目を逸らしてしまった。


「ほらな?」

「……」

「照れてるのは可愛いけど、緊張感より安心感を持ってくれた方が俺は嬉しいんだけどな」

「…安心感くらいあるに決まってるだろう。ただそれ以上にお前といるとドキドキして落ち着かなくなることだってあるんだ」


ぼそりと眉間に皺を寄せて呟くと大石は嬉しそうに顔を綻ばせていた。


「やっぱり手塚には敵わないな」

「そんなにやけ顔で言われても素直に喜べないんだが」


不満気に漏らすと大石はそんなことは気にもせずに「遅くなっちゃうから帰ろうか」と口を開く。
俺も笑顔でそう言う大石には敵わないなのであった。



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