小説
□一口でも沢山の気持ち
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今週の練習メニューについて部長副部長の俺と大石の二人で話し合いをしていた。既に他の部員達は帰ったあとなので部室は静かなものである。
話し合いが一段落を終えた頃には下校時刻間近となっていたため、俺達もそろそろ帰ろうと切り上げ制服に着替え始めた。
「そういえば明日はバレンタインだよな」
すると制服のボタンを留める大石がふと思い出したように口を開いた。
「お前は大変だろうな、頑張れよ」
爽やかに笑う大石にそれだけで癒される。…なんて言ってしまったら調子に乗るだろうか。
「お前だって沢山貰うだろう」
何と言っても相手は誰にでも優しい大石秀一郎。人を疑わずに分け隔てなく親切に接する姿は一番好きな所でもあり、一番妬いてしまう所でもある。
「そんなことないよ」
そしてそんな自分を鼻にかけない大石に惹かれるのは俺だけではないはずだ。
「沢山貰うよりも手塚から貰える方が一番嬉しいんだけどな」
「…何故俺が、なんだ」
「それじゃあ俺があげようか?」
「…結構だ」
「そう言うと思ったよ」
拒否をしても大石は嫌な顔を見せない。それどころか笑いながら「手塚は恥ずかしがり屋だしな」なんて図星をついてきた。
確かに、大石から貰うとなると恥ずかしくてまともに顔を見ることさえも出来ないのではないかと思う。
「まぁ、とにかく明日は女子に揉みくちゃにされるなよ?」
「…されるわけないだろう」
そんな風にバレンタインの話をしながら帰宅をした13日の夕暮れ。