小説

□俺は親友に恋をする
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最近の俺はおかしい気がする。

いや、それとも俺が知識不足なだけであって周りから見たら普通だったりするかも?…と、淡い期待をしてもやはり無理があるよなとあれこれ考える。

親友のあいつにキスをしたいなんて思ってしまった俺はやはり異常なのだろうか。


「違うぞ」

「えっ!」

「日付が間違っている。今日は13日だ」


とん、と日誌の日付の欄に指を差す手塚の綺麗な指に見とれながらも指し示す箇所が間違っていることに気付き、俺は現実に引き戻された。

そうだ、俺は部室で日誌を書いていたんだ。


「あ、あぁ、本当だ。ごめん、手塚。ありがとう」


思わず手塚が俺の思っていることに返事をしたかと思ってしまった俺は恥ずかしく感じながらも慌てて消しゴムで間違った日付を消していく。


「何か考え事でもしていたか?」

「あ、いや…少しボーッとしてたみたいだ」


手塚のことを考えてたなんて言えない俺は言葉を濁したが、変に思われていないか少し心配になった。


「大丈夫か?体調が思わしくないのなら先に帰っても構わないぞ」

「そんなのじゃないから大丈夫だよ。手塚こそあとはこの日誌だけなんだから先に帰ってろよ」

「…お前を置いて帰れるか」

「こりゃ大変。それじゃあ早く書き上げるから待っててくれ」


俺を待ってくれる手塚に思わず嬉しくなった俺は日誌へと集中させ、早く終わらせてしまおうとペンを走らせた。

俺が日誌を書いている間、手塚は図書館で借りたであろう本を読み始めていた。確かこの前の休みの日に一緒に図書館へ行って借りた物だと思われる。洋書だったかな。
そのため、手塚は話し掛けることもないので部室の中は静寂としている。だから俺は集中が途切れることなくあっという間に日誌を書き終えた。ちらりと手塚を盗み見をすれば真剣に本を読んでいるのがよく分かる。集中してるから声を掛けて邪魔をするのも申し訳無い。


(それにしても…)


手塚って本当に綺麗な顔立ちしてるよな。こうも整ってる顔をしてると女子達の間で人気があるのも頷けるわけだし。中にはクールでかっこいいって言う子もいる。確かに手塚は落ち着いてるしクールだって言われるのも分かるけど、これでも結構熱い思いを胸に秘めてたりするんだよな。あとたまに天然だったりするのがまた可愛かったりもする。まぁ、そんな手塚の一面を知ってるのは俺だけだと良いなって思ったりもしちゃうんだけどさ。

ジッと見続けると、ふいに手塚の唇に目が行った俺はドキッと胸が高鳴る。
あの唇に触れたい、と思ってしまった。


(――って、何考えてるんだ俺は!)


机に肘を立て、思わず頭を抱えて下に俯く俺は親友に対して何てことを考えたんだと自己嫌悪する。しかもこんな神聖な部室で親友に不埒な感情を向けてしまうなんて…。俺は副部長としても手塚の親友としても最低なことを考えてしまった。


「大石、どうした?やはり頭でも痛いのか?」


頭を抱える俺に気付いた手塚が心配そうに声を掛けた。俺は慌てて顔を上げて「大丈夫大丈夫」と少しばかり苦笑いで答える。


「本当にか?」


眉を寄せる手塚は本を栞に挟んでパタンと閉じてから机の上に置くと俺の真横に立ち、俺の額に手を当てた。そんな思わぬ手塚の行動に身体中が熱くなる。


「微熱程度、かも知れないが無理するなよ」

「あ、あぁ…」


顔も近付けさせる手塚に俺の中の理性が壊れかかってしまう。このままでは彼に何をするか分かったもんじゃない。そんな手塚との近い距離に俺は理性を抑えることで一杯になってしまう。


「日誌も書き終わったのなら帰るぞ」


額から手を離し、近かった顔も遠退くと俺は安堵の息を漏らした。何とか自分の理性を保つことが出来たので安心して帰り支度をしようと席から立ち上がると、自身の靴紐が緩んでることに気付き俺はしゃがんで靴紐を縛り直した。


「あぁ、そういえば大石」

「ん?」


手塚が俺の名を呼ぶと紐をしっかりと縛った俺は顔を上げて立ち上がる。
だが、思いの外手塚との距離は近かったためほんの少し唇に柔らかいものが当たった。一瞬の出来事であったがそれが何なのか気付いた時には俺はバッと口元を押さえ既に真っ赤になってしまっていた。

唇と唇が…ぶつかってしまったのだ。


「あ、や、ごっごめん手塚!大丈夫かっ?」

「だ、大丈夫だ。不可抗力だから気にしなくて良い…」


唇に指を当て頬を染めながら目線を逸らす手塚があまりにも可愛くて心臓が撃ち抜かれてしまった俺はもう一度じっくりとあの唇に触れたいという欲が溢れてしまいそうであった。けど、俺は頑張って抑え込みながらその日は互いに意識してしまい無言での帰宅となってしまった。

だけど、帰り道もずっと顔が赤くなったままの手塚がまた愛らしくも感じたが、俺が思っていたよりも嫌ではなかったかなと小さな期待を抱くのであった。

俺の親友も同じような気持ちになってくれないだろうか。



 

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