小説

□友情として>愛情として
2ページ/2ページ


「あ、手塚。今帰りかい?」


放課後、部活はないが生徒会の仕事が残っているため、俺は生徒会室に向かおうとすると丁度隣のクラスである大石と鉢合わせした。


「いや、生徒会の仕事があるからまだ帰らない」

「そうか、相変わらず大変そうだな。迷惑じゃなければ俺にも手伝わせてもらえないか?」


迷惑じゃなければ。それは手伝いを申し出る奴の台詞とはとてもだが思えない。


「お前にそこまでしてもらうわけにはいかない。部活もないのだから自分の時間に当てておけ」

「それは手塚もだろ?部活がないのに生徒会だなんて休まる時間もないじゃないか。それだったら一緒に早く終わらせた方が良いよ。それに俺、結構暇だしな」

「…分かった。では、手伝ってもらえるか?」

「あぁ、ありがとう手塚」


それは俺の台詞だ。そう言おうとしたが、あまりにも嬉しそうな表情をするのでそのままにした。まぁ、大石らしいと言えば大石らしいしな。

生徒会室に到着すれば教室からは少し離れているため喧騒さはなく、辺りは静かであった。それでも校庭からは放課後だから遊んでいる者がいるのか男女の入り交じった楽しげな声が聞こえる。だが、生徒会室に入って扉を閉めてしまえばその声も遠退いた。
組み立て式の茶色のテーブルが大きなひとつの長方形になるように綺麗並べられて、俺達は扉から一番近い席に並んで座る。


「俺は提出用の書類を添削するので大石はこっちの書類を一枚ずつ纏めてホッチキスで留めておいてくれないか?」


書類の山をテーブルに置いて一通り説明すると大石は「分かった」と頷き、書類を一枚ずつ手に取り机の上でトントンと綺麗に揃えると右上をホッチキスで留める。
俺も自分の作業をしようと提出用の書類に目を通す。誤字脱字がないかしっかり確認し、訂正箇所があれば赤いペンで直していく。

お互い無言で作業を始めてから30分経った頃、隣で両手を上げて伸びをする大石に気付き、ふと顔を上げて書類に向けていた目を大石のテーブルへと向ける。そこを見ると綺麗に纏められた書類が積み重なっていた。どうやら作業が終わったようだ。


「もう終わったのか。ありがとう大石」

「気にしないで良いよ。俺が勝手にやったことなんだし。そっちはどうだ?」

「あと一枚で終わる。先に帰って良いぞ」

「何言ってるんだよ、あと一枚くらいなら待つから一緒に帰ろう」

「そうか、すまない」


あまり待たせるわけにはいかないと思った俺はすぐに書類へと視線を戻し、作業の続きに入る。残り一枚だったこともあり、10分も経たない内に添削作業は終了した。


「待たせてしまったな」

「そんなに待ってないから大丈夫だよ」

「……」


大石は然り気無く振る舞いながらも俺を大きく支える。その優しさは誰にでも分け隔てなく与えるので彼の人間性には誰もが惹かれるものだと思っていた。だが、不二は何故大石のことをあんな風に言ったのか理解出来ない。


「手塚?どうかしたか?」


黙ったままの俺に不思議に思ったのか大石が声をかける。その言葉に俺はハッとし、すぐに「大丈夫だ」と返した。


「何か考え事か?」

「いや、今日の昼食時に不二が言っていたことを思い出してた」

「え、不二…?」


不二の名を出した途端、急に大石は落ち着かない素振りを見せる。何故かは分からないが先程までの大石とは様子が違った。


「昼休みに珍しく俺の教室に来たんだが…そういえば大石は今日は来なかったな。忙しかったのか?」

「あ、あぁ、うん。そうなんだよ。ちょっと色々ね」


吃り始める大石の様子を気にするも、あえて深くは聞かなかった。


「えっと…不二は何か言ってたのか?」

「…あぁ、大石は俺のことを恋愛感情として好きなどと訳の分からないことを…」


溜め息を吐き出しながら不二の馬鹿げた話を伝えるが全てを言い終える前に俺は口が止まってしまった。
何故なら、目の前に映る親友が絶望したように顔を青くさせていたから。


「…大石?」

「…あ、いや…うん。本当に不二は何言ってるんだろうな。恋愛感情だなんて…俺達は男同士なの、に…」


ほろり。涙が一筋流れた。大石はそれに気付くと慌てて手で拭うが彼の涙は止まる様子はない。
そんな大石を見て何故泣くのか、その理由も気持ちも全てを俺は理解した。


「ご、ごめっ…違うんだ。目にゴミが入ったみたいで…」

「分かったから…泣くな」


誰が聞いても嘘だと分かる大石の言葉。だが、そこまでしても自分の気持ちを吐き出さないのは俺に迷惑を掛けるからと他人のためならば自分の気持ちさえも抑えようとする大石の考えだろう。
そんな彼の気持ちに応えられない故の同情なのか、ほんの少し愛しく感じた故の一時の衝動なのか分からないが俺は大石を優しく抱き締めた。




前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ