小説
□友情として>愛情として
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珍しく不二が俺の教室にやって来たかと思ったら一緒に昼食を取りたいと言ってきたので断る理由もないため承諾すると、にこにことした笑みで不二は空いていた俺の前の席の椅子を俺に向けて向かい合って座った。
この笑みは何か企みがあるような気がして俺は多少の警戒心を向けながら弁当を広げる。
「大石って手塚のこと好きみたいだね」
暫く他愛のない会話をしていると不二は突然脈絡もない話を始める。突然何を言い出すんだと眉を寄せた。
「嫌いであれば友人にはなっていないだろう」
大石とは1年の時からの付き合いであり、俺を支えてくれた友人の一人だ。自分自身でも気難しいだろうと思う所も多々あるが、それでも彼は誰からでも慕われるような優しい微笑みで俺の傍にいてくれた。少なくとも彼を見る限り俺のことを嫌いではないと理解している。
「そういう意味じゃなくてさ」
「ならばどういう意味だ」
「恋愛感情として君のことが好きなんだって意味」
掴み所のない笑みを浮かべる不二の言葉に俺は更に眉間の皺が寄った。
「お前の下らない冗談で大石を巻き込むな」
「なんで冗談だなんて思うの?」
「俺と大石は友人であり男同士だ。恋愛感情なんてあるわけない」
「世の中には同性を好きになる人もいるよ」
一体俺に何を求めてるのかさっぱり分からなかった。冗談も程々にしてもらわないとこのままでは大石に変な噂が広まるのではないか危惧し始める。
「それに手塚は大石の好きな人でも知ってるわけ?」
「知るか」
「聞いてみたら良いよ。大石なら分かりやすい反応してくれるはずだから」
そんな人の心を踏み入れるような真似を誰がするか。
「不二…いい加減にしろ」
とても不愉快になった俺は不二を睨み付ける。だが、奴はそんなことで怯みはせずに「分かったよ」と仕方なしにといった感じで折れて話題を変えた。菊丸が授業中に居眠りしていただの、河村が後輩に告白されただのとそれ以降大石について何も話すことはなかったが、俺はそう簡単に気持ちを切り替えることは出来なかった。友人をあんな風に言われて腹が立たないわけがない。
大石といえば昼食時はよく共にすることが多かったが今日は来なかったな。何か用事でもあったのだろう、どちらにせよ今日は来なくて正解だ。不二のタチの悪い冗談でからかわれていたかも知れないしな。
こうして不二との不愉快極まりない昼食の時間は過ぎていった。