小説

□Happy Birthday to T
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「…どうしよう。思い付かない…」


翌日、手塚の誕生日当日。俺は代わりのプレゼントも用意出来ず、その上何も思い付かないまま朝を迎えてしまった。これでは手塚に合わす顔がない。それでも必死にあれこれと考えながら俺は学校に向かうべく家から出た。


「…プレゼントも用意出来てないのにおめでとうって言うのもな…」


きっと手塚は俺に気を遣ってプレゼントがなくても良いとか言いそうだけど、プレゼントをあげたいという俺としてはそういうわけにはいかない。


「手塚には悪いけどちゃんと用意が出来るまではなるべく近付かないように避けようかな…」


いつも通り一番に部室へと辿り着いた俺は鍵を差し込み、ガチャッと鍵を回した。


「誰が誰を避けるだと?」


ぶつぶつ呟いていた俺は後ろから聞こえた声にハッと気付き勢いよく後ろを振り向く。


「てづ、か…」


どうやら今の独り言が手塚の耳に入ったようで眉を寄せ不機嫌さが顔に出ていた。


「どういうことだ大石」

「あ…えっと…」

「…何かお前の気に障るようなことをしてしまったか?」


腕を組んで何処か悲しげな表情で俺を見つめる。そんな手塚の姿に俺の胸は罪悪感に締め付けられた。


「ち、違うんだ…。悪いのは俺で…手塚は何もしてないよ」

「ならば何故俺から避けようとしたんだ」

「…手塚のプレゼントが用意出来なかったから…会わせる顔がなくて」


ぽつりと言葉を紡ぐと手塚は一瞬目を見開いたあと、俺の言いたいことに気付き「あぁ…」と呟く。


「俺の誕生日…のプレゼントのことか?」


手塚の言葉に頷く。手塚の顔が見れない俺は顔を伏せてるため今彼がどんな表情をしているか分からなかった。だが、小さな溜め息が聞こえて俺の肩がびくっと跳ねる。
手塚が呆れてる…そう思った途端、俺の頭にポンッと何かが置かれた。顔を上げるとそれが手塚の手だと気付く。


「手塚…?」

「俺のプレゼントのことでそんなに悩むな。別に用意しなくともお前がいたらそれで良い」

「でも…手塚の誕生日なんだ。お前のために用意しようとしたプレゼントも売り切れてて…」


喜んでくれると信じてたのに、プレゼントが用意出来なかったのが悔しかった。


「プレゼントはいつでも構わないからそんなに気にするな」

「今日、プレゼントしたかったんだ…」

「では、今日は1日俺に付き合ってくれ。俺にとってのプレゼントは大石が傍にいることだ」

「そんなので良いのかな…」

「お前に避けられるよりずっと良い」


ぎゅっと優しく手塚に抱き締められると俺も応えるように背中に手を回す。


「誕生日おめでとう…手塚」

「ありがとう、大石」


その後、いつまでも抱き締め合っていると不二と英二達に目撃され、からかわれることとなった。

その日は手塚と図書館へ寄ったり、共に備品の買い出しに出掛けたりと遅くまで一緒にいた。
それでも俺は1週間後、入荷した例のルアーをプレゼントすることにしたのはまた別の話。





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