小説

□欲しい言葉
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部活を終えてからも大石の「おめでとう」という言葉は貰えなかった。

帰宅すると母が朝に言っていたように俺の好物が並んであって豪華な夕食となった。それでも考えるのは大石のことで、風呂に入ってる間も宿題をしてる間も彼のことばかり考えて、もしかしたらメールが入ってるんじゃないかと思い、時折携帯を調べるもメールはなかった。

そういえばまだプレゼントの中身を見ていなかったなと後から気付き、鞄に入れた紙袋を開けると中からブラウンのとてもシンプルなブックカバーと来年使えるスケジュール帳が入っていた。どれも実用的だなと思いながら早速今読んでる本にカバーを取り付けた。

時計を見ると時刻は23時。そろそろ寝る準備をしておかないと。そう考えながらも最後にもう一度携帯を開くが大石からのメールは入っていなかった。
もしかしてこのプレゼントを渡してくれたからわざわざ祝いの言葉を口にする必要はないと判断したのだろうか。それなら仕方ない。


「寝るか」


ぽつりと呟き、座っていた椅子から立ち上がると持っていた携帯が急に震えた。マナーモードにしてあるため音は鳴らなかったがどうやら何度も震えるので電話のようだ。こんな時間に誰からだと確認すると、ディスプレイには俺の待ち望んでいた相手の名前が表示されていて、俺は慌てて電話に出た。


「もしもし、大石?」

『誕生日おめでとう、手塚』


電話越しから聞こえた第一声は今日一日ずっと聞きたかった大石からの言葉で、いきなりだったため俺は目を丸くさせ暫く言葉を失った。


『手塚?ごめん…寝てたか?』


何も言わない俺を心配したのか、申し訳なさそうに謝る大石に俺は慌てながら否定する。


「あ、いや、違う。…何故今頃になってと驚いていたんだ」

『俺も本当はすぐに言いたかったよ、誰よりも先に。でも0時丁度だときっと手塚は寝てるだろう?』

「あぁ」

『朝は忙しい上に家族の人におめでとうって言ってもらえてるだろうし、休み時間はクラスのみんなやお前のファンに祝ってもらってるだろうし、部活はみんなで祝うし、夜は家族みんなで盛大に祝ってるだろうから寝る前ならゆっくり手塚と話せると思ったんだ』

「…それでも俺は、お前からの言葉を待っていたんだぞ。ずっと…」

『ずっと、俺のことを考えてくれてたんだな?』


電話越しで相手の顔が見えないというのに何故か嬉しそうに笑う大石の顔が浮かんでくる。
何か言い返したいが結局大石には勝てない俺は何も言えず、答えを待つ彼に返事をする。


「今もだ」


自分でそう言葉にしながらきっと顔は赤くなっているんじゃないだろうかと感じるほど顔が熱い。

口元を手で押さえ、大石が目の前にいなくて良かったと何処か安心する自分がいる。もし大石がいたらきっと嬉しげによく見せてと言いかねない。


『嬉しいな、ありがとう手塚。あと明日なんだけど…』

「土曜日は部活だぞ」

『あぁ、昼までだろう?だから部活終わってから何処か出掛けないか?お前にプレゼントも渡したいしさ』

「プレゼントなら先程貰ったじゃないか」

『あれはみんなからであって俺からじゃないだろ?』


確かにそうだが、そのみんなからというのは大石も含まれてるはずなのに二度もプレゼントを貰っても良いのだろうかと思うも、明日大石と一緒の時間を過ごせるならそんなことを言い返さなくても良いだろうと考えた。


「それならば明日楽しみにしている」


そう告げると大石は「俺もだよ」と返してくれた。

俺にとって大石とこうして話せるだけでもう十分な誕生日プレゼントのような気がしてきた。



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