小説

□初めての物語
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「待たせてしまったな」

「そんなことないよ。俺もさっき来たばかりだから」


待ち合わせ場所の駅前で手塚を待っていると、待ち合わせ時間の10分前だと言うのに手塚は申し訳なさそうな顔をしていたので俺は腕時計を見せて「まだ10分前だしな?」と伝える。だが、手塚はまだ納得出来ないらしく顔をしかめていたが渋々といったように「…あぁ」と頷く。


「それより今日は何処に行くんだ?図書館か?」

「いや、プラネタリウムだ」

「プラネタリウム…?」


手塚の口から聞かされた言葉は俺が想像していたよりも、いや予想外のことで俺は瞬きを繰り返す。だが、そんな俺の態度を気にしたのか、手塚の眉間に皺が寄っていた。


「…嫌だったか?」

「あ、いや、そんなことはないけど、まさか手塚からプラネタリウムなんて思ってもみなかったから」


首をぶんぶんと横に振り思っていたことを伝える。すると手塚は「そうか」と納得してくれたのかと思うと時計を確認して「行くぞ」と目的地であろうプラネタリウムへと向かい始める。
先に歩き始める手塚を小走りで追いかけ、俺は手塚の隣に並んで歩いた。


「それにしても手塚ってプラネタリウムに興味があったのか?」

「…あぁ」


1年の時から彼の傍にいたが、彼が好きなのは山や釣りといったことだとずっと思っていた。でも、まさかプラネタリウムも好きだったなんて知らなかったな。俺自身も星とか好きだから同じ好きな物を共有出来るのは嬉しく思う。

辿り着いたプラネタリウムの前には大きな看板が立て掛けており、そこには今上映されてる内容の紹介が書かれていた。ひとつは天の川をメインとした内容でこの作品は前に不二と一緒に観たばかりである。そしてもうひとつは十二星座についての説明を主にしたものだ。


「手塚はどれを観るんだ?」

「大石はどちらを観たいんだ?」


俺が聞いてるのに聞き返されてしまった。だが、プラネタリウムに誘ってくれたのは手塚だ。俺が決めるのは何か違う気がする。


「手塚の観たいもので良いよ」

「大石のオススメで構わない」


オススメ…と言われるとこの間観た内容を思い出す。不二と一緒に観た時、あれは面白かったから手塚にも見てもらいたいなと思い、俺は天の川の絵を指差す。


「俺のオススメはこっちかな。もうひとつは観たことないから分からないけど、この天の川は凄く綺麗だったよ」

「…それならばこちらにしよう」


すると手塚は十二星座の方へ目を向ける。俺のオススメと言ってたけど観たことないと言ったから俺に合わせてくれたんだろうか。


「手塚、俺はこっちで構わないぞ。また観たいと思っていたし」

「どうせならば観ていないものを観る方が良い。大石と共に新しいものを観たいしな」


そう言う手塚にときめいた俺は頬を染めながら簡単に折れてしまった。



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