小説
□惚薬 <4日目>
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朝練も校内でも俺と手塚はいつも通り何ら変わりなく接していた。何度か二人きりになる機会もあったけど、他愛ない話をしただけで何もない。とても平和な日常であった。
「あ、手塚。これ、竜崎先生からお前にって」
昼休み。俺は先程ばったりと竜崎先生と会い、そして手塚へ渡して欲しいと頼まれた資料を受け取った。そのまま俺は手塚の教室へ足を運び、彼を呼んだ。
「あぁ、ありがとう大石」
「多分、ランキング戦についてじゃないかな?」
「そうだろうな。わざわざ届けに来てくれてありがとう」
「気にするなよ。それじゃあ、また部活で」
「大石」
自分の教室に戻ろうとすると手塚に呼ばれて俺は足を止める。
「部活後に相談に乗ってもらいたいことがあるんだが、良いだろうか?」
「?あぁ、構わないぞ」
手塚が相談事なんて珍しい。きっとランキング戦の組み合わせについてかなとぼんやり考えながら俺はクラスに戻った。
そして、放課後の部活後。皆が帰ったのを見計らって俺は手塚の言っていた相談について切り出した。
「手塚、昼間に言ってた相談だけど…一体何の相談だ?」
日誌を書いてる手塚の手がピタリと止まる。向かい合って座る俺から見ると僅かに手塚の表情が堅いことに気付いた。
何だろう…凄く大事なことかな。
まさか肘が…?
「手塚、もしかして肘に痛みでも…」
「いや、違うんだ。そうじゃない」
「それじゃあ一体何なんだ?」
「…好きな相手に告白をしたいんだ」
「……え?」
今、なんて?
「直接伝えるのと、手紙で伝えるのとどちらが良いだろうか」
「あ…えっと…」
あまりにも突然のことで、衝撃過ぎて言葉が見つからない。
いや、いつかはこんな相談があってもおかしくはないと思っていた。むしろこんな大事な相談を俺にしてくれたことを喜ばしく思うべきじゃないのか?
「大石?」
何も答えない俺に不審に思ったのか手塚が俺の名を呼ぶ。俺はハッとして慌てて言葉を探した。
「あっ…や、やっぱり直接が一番だと思うよ、うん」
「直接言って相手は迷惑には思わないだろうか」
集中、しなきゃ。手塚がこんなにも真剣に相談をしてくれてるんだ。
己の気持ちを押し殺し、俺は彼の恋愛相談に乗る。
「…人それぞれかも知れないけど、手紙より直接言う方が気持ちが込もってると思うんだ」
「そうか」
「そ、それにしても手塚に好きな人がいたなんて初耳だよ。告白、するんだよな?頑張れよ」
「あぁ」
「それじゃあ、そろそろ帰ろう「大石」
俺が席から立ち上がろうとすると手塚が俺の言葉を遮る。胸が抉られたような痛みを覚える俺としては早く帰って休みたかったが、手塚を邪険には出来なかった。