小説
□惚薬 <4日目>
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目覚まし時計のアラームが鳴る10分前に目が覚めた。人によってはまだ10分も眠れるのにと残念がる者もいれば、予定の時間より早く起きれてちょっと得した気分になるという人もいる。俺は断然後者の方だ。
閉めきったカーテンからは朝の淡い光が微かに差し込み、俺はカーテンを開けた。
昨日の部活終わりにはどんよりとした曇り空だったけど、それとはうって変わるほど今朝は曇りひとつない空であった。とても気分が良い。昨日のことなんて全て忘れることが出来そうなほど。
そう、今日からいつも通りに戻れる。いつもの手塚にいつもの俺、もう手塚は全部忘れてるから何もなかったように接することが出来る。
これは最初から願っていたこと。手塚が惚れ薬を飲んだあの日から…だけど、心の何処かで残念に感じるのは何故だろう。一時とはいえ夢を見せてもらったって言うのにこれ以上何を望むんだろうか。
「…気持ちを入れ換えないと」
首をふるふると振って考えたことを振り落とし、学校へ行く支度を始める。
今朝も一番に部室の鍵を開ける。ガチャッと扉を開けた時だった。
「おはよう、大石」
ドキン、と一瞬身体の動きが止まった。
大丈夫。もう大丈夫だから。
「おはよう、手塚!今日は早いな」
自分に言い聞かせるように昨日までの出来事を考えないようにし、俺は笑顔で手塚に挨拶をした。
「あぁ、今日は少し早くに目が覚めたからな」
「そうか、今日も頑張ろうな」
「あぁ」
ほら、何ともない。昨日のことも言ってこない。手塚は元に戻ったんだ。
良かった。本当に良かった。
…とても嬉しいことなのに、本心からそう思ってるはずなのに胸が何かに引き裂かれるように痛い。
(……)
手塚。手塚手塚手塚、手塚っ!
好きだよ、大好きだよ手塚。この言葉が言えなくとも俺はお前の傍で支えられることが出来たらそれで良いんだ。
今日も俺はお前のサポートをするよ。