小説
□惚薬 <3日目>
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部室の前まで辿り着いた俺は息を整えながら手塚のことを考えた。
せっかく迎えに来てくれたのに彼を置いて先に行くなんて無神経過ぎだ…。あとで手塚に謝らなきゃ。
ふぅ、と息を吐いて部室のドアを開けようとポケットから鍵を取り出した。すると後ろから人の気配があって「おはよう、大石」と声を掛けられる。
「あ、不二。おはよう、今日は早いんだな」
後ろを振り向くとそこには優しく微笑むチームメイトの姿があり、何処か安心した俺は笑顔で返事をする。
「早くに目が覚めちゃってね。…それより、あの惚れ薬はどう?」
「え…どう、って?」
突然の話題に俺は言葉が詰まる。あの薬を貰ってから不二からこの話題を出してきたのは初めてだ。不二はそっとしてくれてるんだと思っていたけど…。
「ちゃんと効いてるかなって思って」
「…そうだな…効きすぎるくらいだよ。俺にはやっぱり必要ない物だったし、それに今日には効果が切れるから安心したよ」
「…その割にはあんまり嬉しそうじゃないよね?」
「え…?そ、そんなことないよ」
「そう?それなら良いんだけど…」
「…おはよう」
「あ、手塚。おはよう」
「手塚…」
遅れて着いた手塚は何処か不機嫌そうであった。…そりゃそうだよな。あんな勝手なことをして怒らないはずがない。
「あ、ご、ごめん。すぐに鍵を開けるから」
そこでまだ部室の扉を開けていないことに気付いた俺は慌てて鍵を開けた。
その後、部活は問題なく終了することが出来た。部活の間だけはいつもの俺達でいることが出来る。問題はそれが終わってから。
二人きりにならなければ良いわけだから、もうプランは出来ている。今日は用事があるということにして早く帰らせてもらおう。そしてあわよくば英二達と帰ることにする。一人で帰ろうとして手塚に捕まるより、誰かといた方が手塚も何もしてこないだろう。