小説

□大きい靴
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大石くんと仲良くなってから俺は彼を目で追うことが多くなってきた。…何と言うか、目が離せないんだ。クラスにいる時も部活をしてる時も。

ほら、また球拾いをしてボールを取ろうと走ってる途中で大石くんは転んだ。何かに躓いたと言うより滑って転んだと言うのに近いような。そんな彼の元へ俺は急いで駆け寄った。


「大石くん、大丈夫?」

「あ、手塚くん。…えっと、恥ずかしい所見られちゃったな。僕は大丈夫だよ。ありがとう」


手を差し出すと大石くんはそれを掴んで立ち上がる。とりあえず怪我はないようだが、足元を見れば片方だけ靴が脱げていることに気がついた。


「…大石くん、靴が脱げてる」

「あ、うん。また脱げちゃったか…。実はこの運動靴ちょっと大きいんだ」

「サイズを間違えて買ったのか?」

「ううん。お母さんが男の子はすぐ成長するからって大きめのサイズを買って来たんだ」


脱げた靴を履き直し、靴紐もぎゅっと縛り直す。踵には少し隙間があって確かに彼の足のサイズより大きめのようだ。


「でも、それだと部活もやりにくいんじゃないか?」

「うん、ちょっとね。でもせっかく買ってくれたから履かないわけにはいかないし、だから早く大きくなるように願ってるよ」

「…大きくなるといいな」


少なくとも今の大石くんの身長が伸びるなんてあまり想像出来ない。…いや、俺の想像力が乏しいだけなのかも知れないけど。


「うん。でも、手塚くんもすぐに大きくなりそうだよね」

「そう、かな」

「そうだよ。あ、それじゃあ3年になるまでどっちが大きくなるか勝負しようよ。負けた方が勝った方の言うことを聞くってことで」

「随分と長い勝負になりそうだけど…」

「でも楽しそうじゃないかな?」


ふんわり。そんな風に笑う大石くんの表情がとても可愛く見える。男にそう思われるのはやっぱり複雑だろうと思うから言わないようにした。


「まぁ…ちょっとは」


だけど、その笑顔がドクンと俺の胸を高鳴らせる。何故、かはまだこの時には知ることはなかった。


「それじゃあ勝負開始だね。僕、負けないから」

「勝負を受けたからには俺も負けない」


大石くんが手のひらを上げると俺はその手にパシンとハイタッチする。二人だけの勝負が始まった。だからといって目に見えて争っているわけではなく、身体測定の度に互いの身長を報告しあっていたくらいだ。


だが、ぶかぶかの靴がぴったりになるのが二年生を迎える頃だったのでそれまでの間、大石くんは何度も転けて傷だらけになる生活が長く続いた。
















そして俺達は三年生になった。


「というわけで三年生になった今。あの頃の勝負の結果は見て分かる通り、俺の方が身長があるということで俺の勝ちだ。負けた方が何でも言うことを聞くと言う話だったから早速使わせてもらうぞ。大石、結婚しよう」

「え…っと、手塚…。ツッコミ所が満載過ぎるよ。まず、俺達は付き合ってないし、男同士だし、まだ結婚出来ないし…」

「大丈夫だ。そんなの問題にすらならない」

(俺にとっては大問題なんだけど…)



 

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