小説

□プレゼント=?
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今月は恋人である大石の誕生日。だが、一週間前だと言うのにまだプレゼントの用意が出来ていない。
忘れていたわけではない。むしろ4月に入ってからずっと考えていた。それなのに何がいいのか全く思い付かない。

リストバンドやタオルを渡しても誕生日プレゼントらしく感じないし、かと言って大石の趣味であるアクアリウムに関わる水草や石などを買おうとしても、俺は詳しくは知らないため大石の好みに合わない物を渡してしまうかも知れない。

一体、何をプレゼントしたら大石は喜ぶんだ?


「大石、欲しい物を言ってくれ」

「えっ?いきなりどうしたんだ手塚?」


散々考えた結果…本人に訊ねることにした。誕生日を迎える本人に聞くなんてルール違反だと言うのは分かっている。本当はちゃんと考えてプレゼントを用意したかったが、このままでは決まりそうにもないし、プレゼントをするなら本人が喜ぶ物を渡したい。
だから学校帰りの二人きりになった今がチャンスだと思い、唐突に聞いてみた。


「いや…誕生日プレゼントを渡したいからな」


ピタッと立ち止まってそう言うと同じく歩みを止めた大石は暫く黙ったまま俺を見つめる。暫くすると、俺の言葉の意味がようやく理解出来たのか、大石は「あぁ!」と左の手のひらの上に右手の拳を落とし、ぽんっと叩き頷く。


「もしかして俺の誕生日プレゼントのこと?」

「そうに決まってるだろう。だから欲しい物を言え」

「欲しい物…?うーん…」


顎に手を当てて考える大石に俺はまだかと言わんばかりの無言の圧力をかける。


「…俺は、何でもいいよ」

「……何でも、だと?」

「うん。手塚が用意してくれた物なら何でもいいよ」


にっこりと笑う大石に俺は眉間の皺を寄せる。
何でもいいでは一番困るんだ。何も良いものが思い付かないからこうして聞いていると言うのに。


「…ちゃんと欲しい物を言ってくれ」

「だから何でもいいんだよ。手塚が一生懸命考えて用意してくれた物が一番嬉しいんだ」


俺はそれ以上何も言えなかった。逆の立場だったら俺も同じことを言っていたと思うから。

そして俺は大石の誕生日ギリギリまで悩み続けた。あぁでもない、こうでもないと今まで生きてきた中で一番悩んだのかも知れない。

悩みに悩んで俺はひとつのプレゼントを用意して大石の誕生日を迎えた。



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