小説

□疲れ知らず
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「大石のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」


大好きな手塚からの告白はとてもシンプルだけど、俺には十分過ぎるほどの言葉だった。
本当に俺でいいのか?男だぞ?人生の道を踏み外してしまうぞ?って何度も手塚に問い掛けたけど手塚はその度に嬉しい答えを返してくれた。

俺って幸せ者なんだって思わずにはいられない。

手塚と一緒にいられる空間があるだけで嬉しいのに、恋人になった今ではもっと手塚の傍にいたくなった。
今度の休みは手塚は暇かな、一緒に過ごせないかな、なんて考えるだけでも幸せを感じる。それだけ俺は舞い上がっていた。


「大石、すまないがこの後の部活少し遅れる」

「生徒会の仕事か?最近忙しそうだな」

「あぁ、なかなか片付かなくてな。すまない」

「気にしないでよ。部活のことは俺に任せて、生徒会頑張って来いよ」


手塚が俺の教室へ訪ねて来て部活が遅れるという話を聞かされ、申し訳なさそうに謝る手塚に大丈夫だよと笑顔で答えては彼を生徒会室へと向かわせた。手塚が持っていた書類の量はそれなりに多かったからきっと家でも生徒会の仕事をこなしてるんじゃないかなと思う。ここ最近の手塚は部活が遅れて生徒会の仕事に明け暮れている。
生徒会長であり、テニス部部長。そんな忙しい彼に休息の時間はあるのだろうか、それが気掛かりでならない。きっと次の休みも忙しいはずだ。ちょっとでも暇かな、なんて考えていた自分が恥ずかしい。俺が手塚の為に出来ることは何かないかな…。


「大石、明日は暇か?」

「えっ?」


その日の帰り道。手塚と一緒に家に帰る途中、手塚が突然明日の予定を聞いてきた。


「暇ならば一緒に水族館にでも行かないか?前に行きたいと言っていただろう」

「あ…」


そういえばこの前見た雑誌でリニューアルオープンした水族館が気になって手塚にそんな話をした記憶がある。でも、手塚はちょうど日誌を書いていたから覚えてはいないだろうなと思っていた。
だから覚えていてくれたことが凄く嬉しい。だけど…。


「でも、生徒会の仕事とかあるんじゃないのか?」


何せ彼は学校の誰よりも忙しいと思われる男、手塚国光だ。俺に気を遣ってくれてるならばそんなことは気にせずに先にそちらを優先してほしい。


「仕事はちゃんと片付けてある。だからお前を誘ってるんだ」


さすがだな、手塚。中途半端にはせずに最後まで終わらせて遊びに誘ってくれたのか。行く場所も俺に合わせたんだろうな。
けど、手塚…休めてないだろう?ずっと忙しそうにしていたんだ。休息は取ってないんじゃないか。せっかくの休みを無駄に過ごすことはないはずだ。


「…どうした大石?何か予定が入ってたか?」

「あ…うん。ちょっと…妹と一日中、買い物に付き合わなきゃいけなくてさ」


咄嗟に吐いた嘘。手塚に嘘を吐くのは心苦しいけど、こう言わなきゃきっと手塚はゆっくり家で休んでくれないだろう。


「そうか、残念だ」

「ごめん、手塚。せっかく誘ってくれたのに」

「いや、唐突過ぎたからな。俺の方こそいきなりですまない」



表情には出さないものの、何処か寂しげな雰囲気を出す手塚に胸が痛くなる。いきなりでも手塚からの誘いなら俺は何だって喜ぶよ。でも、ごめん。疲れ知らずだと言われてる手塚でも休める時には休んで欲しいんだ。だから無理はしないでくれ。



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