小説

□夢みたいに
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夢を見た。

大石に抱かれる夢。

熱のこもった荒い息は俺のものなのか大石のものなのかも分からないほど、互いに求め合い、蕩けてしまう気がした。

愛撫される度に甘美な痺れに酔ってしまうくらい夢の割にはリアルだったと思う。


「……」


現実へと引き戻された俺は夢だと気付くのに少し時間を要した。

日曜日の朝の目覚めにしては刺激が強すぎる。それが夢と気付いた後に思ったことだ。


「あんな夢を見るなんて…欲求不満なのか…」


眼鏡を掛けて覚醒する頭とは裏腹に先程見た夢の細かい内容はうっすらと消えかかる。とにかく覚えていることは大石に抱かれていたということ。
だが、付き合い出してから今まで体で繋がるというところまではいったことはない。
まだ中学生だから、と言ってしまえばそれまでだが、逆を言えば正しい知識を得て間違った方向へいかなければ問題はないんじゃないかと考える自分がいる。

要は俺は大石とそういうことがしたい、ということだ。










「手塚?」

「…どうした?」

「それはこっちの台詞だよ。ジッと見つめるからさ…。何処か難しい問題でもあったか?」


その日の昼過ぎは大石の家で週末に行われるテストの範囲を勉強していた。テーブルを挟んで向かい合う俺達。だが、今朝の夢のことがあり、集中が出来ずペンを走らすことは出来なかった。

大石は…したいと思ったりするだろうか。


「いや、大丈夫だ」

「…本当か?何だかボーッとしてるみたいだけど悩み事なら聞くぞ」

「…あぁ」


悩み事、なんだろうか。確かに悩んでいると言えばそうなんだろう。だが、軽々しく打ち明けるような内容でもないし、もしかしたらテスト前でもあるのに不謹慎だと思われるんじゃないだろうか。


「……。もしかして言いにくい内容か?それなら無理しなくていいからな。話せそうな時に話してくれていいぞ」


何も言わない俺の気持ちを汲み取った大石は優しく俺の頭を撫でる。気恥ずかしくも感じるが大石の手はとても心地良い。夢の中でこの手が俺の身体全てを触れていたと思うと身体の奥が熱くなる。


「…大石」

「ん?」

「俺のこと好きか?」

「もちろん、大好きだよ」


念のためにと思って訊ねた質問に大石はにっこり笑って答える。この笑顔に何度癒されて、ときめいただろうか。


「じゃあ……シタイ、と思ったことはあるか?」

「…え?」


俺の言葉の意味が分かったのか、暫く沈黙が続いた。やはり聞かなかった方が良かっただろうか。少し後悔をし始めると大石は口元を手で隠し、俺から目を逸らした。


「えっと…ごめん。何を…なのかな」

「…分からないか?」

「いや…何だか自分の都合の良いようなことしか思い浮かばなくて…だから…」


口元に手を当ててあまり表情は見えないが、よく見ると微かに顔が朱に染まっている。

この反応は期待してもいいのだろうか。

向かい合って座っていた俺は大石の隣へと移動し、顔下を隠すその手を掴み取った。そしてそのまま姿を見せた唇に自分の唇を軽く重ねる。小さく音を立ててから口を離すと自ら口付けたことに恥ずかしくなり、大石の顔をまとも見ることは出来なかった。
自分から大石にキスをするのは片手で数えるくらいしかないのできっと大石は目を丸くしてるんじゃないだろうか。それは見てみたい気もするが今は自分の気持ちを口にしなければならない。


「…今の、口付け以上のことをシタイと思ってる。大石はどう…っん」


目の前の相手の様子を窺おうと顔を上げると大石の顔が近くにあり、今度は大石から口付けをされた。隙間から舌が入り込んで俺の舌と絡まり水音だけが強く耳に残る。触れるだけの接吻は何度もしたことはあるが、こんなに深い口付けは初めてだった。咥内を掻き回される舌の動きに自ら舌を絡ませては互いに貪る。


「ふっ…んっ、あ…っ」


暫くしてから唇が解放されるが、荒くなる息を整えながらも物足りなさを感じた俺はもっととねだるように大石の服の裾を掴むと大石はその手に手を重ねた。


「…そんな目をされたら抑えられなくなるだろう?俺だってシタイって思ってるんだからさ」

「…思ったことがあるのか?」

「そりゃあ何度だってあるよ。というか、手塚はそういうのに疎いんじゃないかなって思ってたんだけど…」


誘ってるんだよな?と問われると否定は出来ない。自分の言動を思い返すと顔に火が出てしまうんじゃないかと言うほど一気に熱くなった。只でさえ先程の口付けに身体が火照ってしまっていると言うのに。


「…ね、手塚。お前さえ良ければテストが終わったら……いいか?」


耳元にぽそっと呟く大石の言葉に俺は顔を赤くしたまま一度だけ頷いた。

夢が正夢になるのもあと少し。



 

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