小説

□惚薬 <4日目>
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「まだ、何か相談か?」

「お前が好きだ、大石」


…俺、まだ体調が優れないのかな。とんでもない幻聴が聞こえた気がする。そして何処となくデジャヴも感じた。


「手塚…ごめん、今なんて?」

「お前が好きだと言っている」

「…あ。告白の練習なんだな?驚かすなよ。でもストレートに言えるなら大丈夫そうだな、本番もその調子で…」

「大石、いい加減自分へのことだと受け止めろ。今日で俺が何回お前に告白してると思ってるんだ?」

「…え?」


何回目って…いつもの手塚が俺に告白したのは今回初めてだけど……もしかして…。


「お前…!まさか惚れ薬の効果が切れてないのかっ?」

「だから俺は最初からお前のことが好きだと言っているだろう?」

「えっ…いや、違う!有り得ない!手塚に限ってそんなこと…。そうだ、不二に見てもらおう。そうすれば元のお前に…」

「大石」


強い口調で俺の名を呼ぶ手塚に俺は途中で口籠った。


「…ひとつだけ白状しておく。俺はお前が惚れ薬を持っていることを知っていた」

「…えっ?」

「不二から聞いたんだ。それでお前が誰かに使ってしまうんじゃないかと思って…だから、俺が飲んだ」


俺は夢を見てるんじゃないだろうか。本当に、本当に本当に手塚は惚れ薬の効果がないのか?


「そして俺が惚れ薬を飲んだせいで大石のことを好きになったとお前に勘違いさせて俺に意識させようとした。俺を好きになってもらおうと。…こんな卑怯な俺は嫌いか?」


真っ直ぐな手塚の目が俺に向けられる。


「嫌い、じゃないけど…本当に、惚れ薬じゃないのか?」

「俺は惚れ薬を飲むずっとずっと前からお前のことが好きなんだ。だから惚れ薬などと言って俺の気持ちをなかったことにしないでくれ」

「…手塚、ごめん」

「謝罪はいらない。そんなことよりも俺のことどう思ってるんだ?お前の本当の気持ちを教えてくれ」


本当の気持ち。それは本当に手塚に伝えて良いのか戸惑った。だって言ってしまったらもう元の友人には戻れないかも知れない。


「大石…何も考えるな。お前の気持ちが聞きたいんだ」

「手塚…」


そんなこと言われたら…言わなきゃいけなくなるじゃないか。


「俺…も、好きなんだ。手塚のことが好きで…大好きで仕方ないんだ」


ずっと言わないと決めていた言葉をついに言ってしまった。初めて手塚に伝えた俺の気持ちに嬉しいのか悲しいのか分からないまま俺の視界が歪んだ。すると、手塚が席から立ち上がったと思った途端、座っている俺の手を引っぱり立ち上がらせると強くぎゅっと抱き締めた。


「大石…好きだ、愛してる」


手塚の腕の中は温かくてとても心地良かった。思わず手塚の背中に手を回して俺もぎゅっと抱きつく。


「手塚…本当に、本当の本当に本当なんだな?俺の都合の良い夢じゃないんだよな?」

「夢なものか。仮に夢だとしても俺がお前を好きなことに変わりはない」

「…でも、俺は男だぞ?将来的にお前の足枷になってしまう…」

「お前さえ俺の傍にいてくれたら全て乗り越えられる」

「……俺なんかで良いのか?」

「なんかなんて言うな。俺はお前だから好きなんだ」


不安だったものがひとつひとつ、手塚の言葉により消えてなくなっていく感じがした。重いものが全て剥がれ落ちて心が少しずつ軽くなる。


「ありがとう、手塚。何だか一生分の幸せを貰ったみたいだよ」

「何言ってる。これから俺がもっとお前を幸せにしてやるんだ。これくらいで満足をするな」

「はは、こりゃ大変」


溢れる涙を手で拭いながら俺は小さく笑う。きっと俺は世界一幸せ者なのかも知れないって思った。大袈裟じゃなく本当に。

切っ掛けは惚れ薬。色々思い悩んだこともあったけど、今が幸せ過ぎて全部良い思い出として書き換えられていく気がした。




俺達は互いに気がすむまで抱き合っていた。



END
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