沖土小説
□届かない手
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土方さんと付き合い始めたころだった。
桜は散り、葉桜になった頃。
俺達は二人で屯所の小さな桜の木を見ていた。
「なあ、総悟」
土方さんはいきなり話し始めた。
「何ですかィ?」
「お前は花だと何が一番好きだ?」
そんなことを聞かれて少し笑う。
男が、それにこの鬼副長が花だなんて。
「花って…俺ァそんな柄じゃねェですぜ」
そういうと土方さんも笑う。
「俺もそうだけどよ」
土方さんは少し目を細めた。
「昔な、俺が近藤さんとお前に会う前住んでたところにでっけえ桜の木があってよ。
毎年春になるとそりゃぁ見事だった」
そう言ってふっと笑みを浮かべた。
「今じゃあそんなのんびり花見なんてやってる場合じゃねェが、
いつか見にいきてェな」
そういう顔がどこか淋しそうに見えた。
「ッ、じゃあいつか俺と行きませんか?」
思わず口をついた言葉に自分でも驚いた。
だが、土方さんの方がそれ以上に驚いたみたいだった。
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