Amaretto

小娘と七人の侍
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その日から、私たち7人の長州藩での生活が始まった。

私はすっかりつわりモードに入っていて、吐いたりすることはなかったけど、なかなか食事が喉を通らず随分と皆を心配させた。

しばらく経つと、つがいのあわびを高杉さんが取り寄せて、生まれて来る子供の目が美しくなるようにと食べさせられたり、戌の日に神社で参拝して、安産の祈願をし、祈祷してもらった腹帯をお腹に巻くようになった。

皆、志のために忙しく過ごしている日々の中で、「身体を冷やすな」「夜は早く床に付け」「顔色が悪くないか」「食べたいものはないか」と何かと私を気遣ってくれて、それはもう時々度を超して、うるさいくらいで…。

そんなある日、それは突然朝ご飯の最中に始まった。

「…んっ?」

「どうしたっ!?名無しっ?魚の骨でも喉に詰まらせたか?」

少しの変化も見逃さないと、高杉さんが目を見開いて乗り出す。

「あ…いえ…。」

ん…。なんか今、お腹の中でぽこぽこぽこって、水泡が湧いたような振動があったんだよね?
空気が動いたみたいな…。

うごいた…?

「あああ〜!!」

「「「ど、どうした!?」」」

その場にいた高杉さんを始め、武市さん、龍馬さん、桂さん、以蔵、慎ちゃん全員が驚きの声を上げる。

「あのっ!いまっ!う…動きました!」

「動いたって…赤ん坊がかい?」

「はい。武市さん…赤ちゃん動きました!」

お腹を擦るとなんとなくだけど小さな小さな振動が伝わってくるような気がする。

「おいおい〜!俺にも触らせろっ。」

右横にいた高杉さんがすぐさま、お腹の上に手を当てる。

「んーん?まだわからんな…。」

「ふふ…晋作、まだまだ男親はわからないもんだよ。」

「どれ、僕も触ってみよう。」

すかさず左隣の武市さんもお腹に手を置いてそっと擦ってくれた。

「うん…わからないな…。」

「なんじゃなんじゃ。武市も高杉さんも名無しの腹の上で一緒に手を合わせとるように見えるぜよ。」

「まったく珍妙な光景だな。」

「いやあ〜。仲睦まじく羨ましいっス。」

「ふふふん。羨ましかろう。」

「羨ましがられて光栄だな。」

「ふふ…ふたりはすっかり息が合っているようだね。」

いつまでもお腹から手を離してくれない二人に、言い憎いんだけど…。

「え…っと嬉しいんですけど、高杉さん、武市さん…ご飯の続きを食べますから…///もう、手をどけてもらって…いいですか?///」

「お!もうすっかり名無しの本調子がでてきたようだなっ。」

「つわりはおさまってきたみたいだね。痩せてしまった分をしっかり取り戻さないといけない。」

高杉さんと武市さんの微笑む顔が嬉しい。

そういえば昨日くらいから涼しくなったこともあって、だいぶ気分がいい。一時期は、何も食べ物が受け付けないで随分と皆に心配をかけてしまった。


「また動いたら、すぐ二人に知らせますね。」

「あ〜、待ちきれんっ。おい〜!早く出てこい!!」

「これこれ、それこそ早急というものだよ。」

「本当に待ち遠しい。」

「こいつが産まれてくる頃は、新時代の幕開けだぞ!」
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