Amaretto

複雑な景色
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夕餉の時間、大久保さんは夕刻から用事があって出かけたと聞かされ、ひとりで夕食をとった。

夜になっても大久保さんは戻らず、なんとなく顔を合わせたくなかった私は心のどこかでほっとしていた。

…なんだか、今日は大久保さんの顔がまともに見られない気がする…。

「大久保さんも怒ってるのかな…?」

お風呂から上がり自室でぽつりと呟く。

藩邸の門で見た大久保さんは、私を見つけて一瞬ほっとした表情を見せた。

でもそれも束の間、平助くんを見てすぐに冷ややかな目になり、その後、私にもあんまりいろいろ聞いてこなかった。

今日はまだ、帰ってこないから確かめようもないけど、心配をかけたことは間違いない。明日はちゃんと謝って、普通に大久保さんの顔が見れるようになっていたい…。

あれこれ考えてもしょうがないので、もう寝ようと思って、薄暗い常夜灯にほのかに照らされた布団を見た時、昼間の茶屋でのことを思い出した。



土方さん…。

急にかあっと顔と身体が熱くなる。

私…軽はずみなことを言って、土方さんは…怒ったんだと思う。

本当の気持ちだけど、言っちゃいけないことだったんだろうな…でも…言わずにいられなかった…。

私は心もとない気分のまま寝床に入った。

**

その夜は、なかなか寝付けなかったけれど、さすがに子の刻を少し過ぎた頃、うとうとし始めた。

…そのとき、襖がすーっと開いて、私の枕元に誰かが立った。

「…小娘。」

…お、大久保さん?

私は眠い目で声のするほうを見つめた。

「小娘…私の目は誤摩化せんぞ。」

やっぱり、大久保さん…?

大久保さんは私の枕元に胡座をかいてドカッと座り、私の掛けていた布団を剥いだ。

「お、大久保さんっ…!」

目が覚めた私が半身を起こそうとしたとき、いきなり両肩を押さえられて身体の上に馬乗りされる。

「土方と…何があった?」

かかる息でわかる、大久保さん…お酒飲んでる?

私を見下ろす大久保さんの目に小さな怒りの炎が灯っているのが見える。白い炎を携えた瞳が冷酷に、私を見下ろしている…。

「何があったか…話してみろ。」

「なに…って…、なんにもないです…。」

「おまえが昼間、何をしていたか…私が気付かないとでも思うのか。」

「…////!」

そう言うと大久保さんは乱暴に私の寝間着の袷を開いた。

「この跡はなんなのだ!小娘、説明してみろ!」

大久保さんは私の鎖骨の下のあたりにある土方さんの付けた紅い口吸いの後を見て、詰問する。

「こ、これは…。」

「小娘、おまえは昼間、往来での喧嘩見物と岡田君を追う新撰組との雑踏に紛れて、土方と逢い引きをしていたのか!?」

「…違います!大久保さん…誤解してます!私…逢い引きなんかしていません!」

私は必死になって、押さえつける大久保さんの手をはねのけようともがいた。

でも、あんなに華奢な大久保さんでも男の人の力には抗えない。

大久保さんは私が逃げないよう身体の上に重さをかけて乗っかかり、その細い指先で私の鎖骨の下にある紅い跡をなぞった。

「名無し…っ!おまえの身体は最早、男を…土方歳三という男を知ってしまったのか!?」

「大久保さんっ!お酒に酔ってます!やめてっ!離してくださいっ!」

「どうなのだ?おまえはもう生娘ではないのか!?」
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