Amaretto
□鬼より怖い優しい彼
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こいつの突然の行動に面食らったのも正直な話しだ。
しかし、今となっては俺に『本気だ』なんて真剣な目で言う名無しに、腹が立っていた。
何にもわかっちゃいねえ、お嬢の戯言。
鼻っ柱だけは強い…我が儘で高貴で、虫一つ殺したことなんざあない綺麗な顔を歪ませてやりたい。
上等な着物に身を包んだ、生意気で世間知らずの…
ただ大久保に囲われて、蝶よ花よで暮らしているこの娘を、俺の手で穢してやりたい衝動だった。
「着物を脱げ。」
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土方さんに放り込まれた部屋には、布団が一組だけ敷かれてあった。
それを見た瞬間、私はここがどういう所なのかがわかった。
…ここって…、つまりラブホだよね…。
そう思って、土方さんを見ると
「自分じゃ脱げねえか?だったら、俺が脱がしてやる。」
そう言って、乱暴に着物の合わせを押し広げられる。
「いやあ!」
「本気なんだろ?だったら、今すぐここで俺の女になりやがれ。」
そのまま、布団に押し倒され首筋をキツく吸われたまま、帯を解かれる。
「いやっ…いやいや!土方さんっ…や、やめてください…っ」
「くち、塞ぐぞ。」
そう言うと土方さんは私に乱暴にキスしてきた。
*
「ん…ん…ん!」
俺は名無しに口吸いしながら、乱暴に着物を脱がした。
名無しは俺に組敷かれた下で、俺を叩きながら必死になって着物を脱がされないよう抵抗する。
たかが華奢な女の抗いだったが、本気で嫌がって暴れている名無し。
おい…。俺にここまで抵抗するか?
いくら無理矢理とはいえ、この俺だぜ?
俺の接吻は他の男とは全然違うと何人の女に言われたか…
「!」
痛みを感じて唇を離すと、名無しは俺に噛み付いたのか、血の味が口の中に広がった。
手のひらで拭うと鮮血が付いていた。
「はっ。なるほどな。」
「はぁ…はぁ…」
「おまえの本気なんて、これっぽっちのもんじゃねえか。」
*
あんなに優しかったのに、今の土方さんは怖くて意地悪だった。
「大抵の女は俺に抱かれりゃ、その下でひぃひぃ悦ぶんだぜ…お嬢さんよ。あんたの本気なんてこんな程度のものなんだろ?」
…あんなに会いたくて、やっと会えたのに…今の土方さんは私が知ってる優しい土方さんじゃない。
「………。」
悲しいのと怖いのとで涙がとまらなかった。
ただ、わかったこと…
私は土方さんを好きになっちゃいけない人間なんだ。
そう思うと悲しくて、涙がポロポロと溢れ落ちた。
「もう、いい。」
「……。」
「もう、いい、興が醒めた。」
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