Amaretto
□告白のあと
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次の日から“お墨付き”で神社探しが始まった。
そうは言っても毎日少しずつ、大久保さんと出かけた帰り道や、私ひとりなら半次郎さんが付いて一日のうちの少しの時間で探すくらいだった。
とにかく京都は神社やお寺が多い…わかっていたけどなんだか道に迷ってしまったように、思うようには見つからなかった。
写真もないし、自分の記憶だけが便りだ。
でもそんな記憶もぼやけて来て、焦燥感も大きい。
それをなるべく表には現れないよう無意識に勤めていた。
時々、龍馬さんたちが薩摩藩邸に会いに来てくれたり、大久保さんが長州藩に連れてってくれたりして、楽しい時間を過ごしていたので、皆に心配をかけたくなかったから…。
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今日は久しぶりに街中に出ていた。
お付きの人を大久保さんが付けてくれて、冬物の着物に合う小物を探しに出て、店を見てまわった。
「やっぱり自分で見て探すのが、一番楽しいんだよね♪」
藩邸出入りの呉服屋さんが一緒に持って来てくれる、簪や飾り紐はどれも素敵なんだけど、豪華すぎてなんだか私にはしっくりこない気がするし…。
もうちょっと、カジュアルっていうか…町で私と同い年くらいの娘さんが身につけている可愛らしいのがいいんだよね。
「そのほうが自分らしいんだもん…。私、全然お嬢さまじゃないし…。」
あの日___。
あの土方さんと薩摩藩で合った日から、土方さんとは全然会えていない。
街で新撰組にはもちろん遭遇するし、総司さんや平助くんは見かけたけれど、私もお付きの人と一緒だから目的の用事が終われば帰るだけだった。
「ん?あの人ゴミなんだろ?」
通りの向こうに黒山の人だかりが出来ていた。
「喧嘩だ!喧嘩だ〜!!」
と、言うかけ声が掛かった時
「キャ〜ッ!!!」
と悲鳴が響き、蜘蛛の子を散らしたように人々がその場を離れる。
その真ん中で刀をかざしてにらみ合う浪人風のお侍さんがふたり見えた。
うわ!喧嘩は江戸の花っていうけど、京都でもあるんだ…。
って、後ろを振り向くとお付きの人がいない。
どうやら、人波に揉まれて、はぐれてしまったみたいだった。
あたりを見回して、キョロキョロしていると
「おい!おまえ、突っ立って呆けている場合か!?巻き込まれるぞ!」
いきなり腕を掴まれて、見ると以蔵が立っていた。
「あ!いぞ…。」
「馬鹿!」
そのまま、以蔵に腕を掴まれたまま全力疾走で走る。
「岡田以蔵があちらに走っていたぞ!!」
突然、浅葱色の羽織の集団が押し寄せて来た。
人混みに紛れて、路地の狭い通路に身を隠し通りを覗くと、新撰組の隊士たちが走り去って行った。
どうやら喧嘩を取り囲んだ人混みに以蔵と追いかけていた新撰組がはち合わせたようだった。
「以蔵、助けてくれてありがとう。」
「静かに…!こっちに来い。」
裏路地から抜け出して長屋が続く小さな道に出たところで後ろから声がかかる。
「その娘を離しな。」
振り向くとそこには、浅葱色の羽織をまとった土方さんが立っていた__。
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