spin off
□贅沢なしあわせをありがとう
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「どうして?」
私は無我夢中で慎ちゃんに詰め寄った。
「どうして…って、姉さん、なんでっスか?」
「なんでって、私…私…寂しいの!」
「さ、寂しいって…。姉さん、大久保さんと喧嘩でもしたんスか?」
心配そうな顔して慎ちゃんが私の顔を覗き込む。
「ううん。してない…。」
一体、なんなんだろう?
最近の私…大久保さんとの祝言を控え、普通なら幸せいっぱい…いいえ、充分に自分は幸せなはずなのに…。
「…なんかね。私、結婚…じゃなくて大久保さんのお嫁さんになるでしょ?なんだか、皆…慎ちゃんや龍馬さんたち、桂さんや高杉さんが遠くに行っちゃうような気がするの。」
「遠くに行っちゃう…って…。
それは俺らの台詞っス。大久保さんの奥方になったら、遠い人になっちゃうのは姉さんっス。」
やっぱり…!
そうだよね…大久保さんの奥さんになるんだもん。
奥さんって、「奥」って書くし、私、これからずっと「奥」なんだ。
この時代の奥さんって、本当に奥にいそうだもん…。
改めて結婚することを認識した私は、明らかに戸惑っていた。
「姉さん…?大久保さんのこと好きなんですよね?」
「え?う、うん。もちろんだよ。」
「だったら心配することないっス!大久保さんは薩摩の頭脳って言われてるくらいできる人っス。
それに加えて、私利私欲では動かない、いつも先を見通したデッカイことができる人っス。姉さんは安心して、大久保さんの傍らにあればいいんです。俺らはこれからも変わりなく姉さんに会いにくるし、何も変わらないっス!」
慎ちゃんは私が少しでも安心するように、しっかりとした口調で丁寧に説明してくれた。
「う、うん…。そうだよね…。」
そう、わかってる。
私は大久保さんが大好きで、愛してて、これ以上ないくらいとっても幸せって。
なのに…なんでなんだろう?
「姉さん…冷静になって考えてみてください。姉さんの周りにいる男たちは大久保さんを始め、龍馬さん、高杉さんと、皆、デッカイ男ばっかりっス。でも俺は結婚するんだったら、やっぱり大久保さんが一番だと思うっス。」
「え…?そうかな?慎ちゃんは、なんでそう思うの?」
「ひとりひとり想像してみればわかるっス。まず、龍馬さん。龍馬さんは、ああ見えて野獣っスよ。」
「Σえ!なんて言ったの?や…?」
「あああ!いえいえ。とにかく龍馬さんは女性にモテるっス。
来るものはなんでも拒まず、考え方も新しいし、天真爛漫というか…とにかく誰にでも優しいし人懐っこいですから。
そんなわけで結婚したからって、結構安心できないっス。もちろん姉さんのことは充分大切にしてくれるでしょうけど、他にも女の人ができたら…妻妾分け隔てなく愛するって、かんじの人っスよ。」
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