Amaretto
□告白のあと
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顔を上げると、そこには土方さんとふたりの男の人が座っていた。
「紹介しよう。こちらが私の姉の嫁ぎ先の遠縁にあたる娘で、名は名無しという。」
___ん?遠縁?
一瞬固まったが、その場にいた人たちの視線を感じてすぐさま挨拶する。
「名無しともうします…。」
かしこまった状況になんだかたどたどしいけど、三つ指を付いて深々と挨拶する。
「名無し、こちらは新撰組の幹部の方達だ。」
大久保さんに紹介してもらって、ひとりひとり名前を名乗って挨拶してくれた。
近藤さん、伊東さん…
そして
「新撰組副長、土方歳三と申す。」
私の目を見ながらきりりと話す、土方さん…。
「…土方さんと名無しは既に面識があるようだが…。」
大久保さんがそう言うと
「三度ほど。そのうちの1回は大久保さんもいたじゃないですか。」
と、ちょっと強い口調で土方さんが答えた。
「ほう。こんな見目麗しい深窓の娘さんと知り合いだったとは…。つくづくうちの土方の顔の広さには恐れ入る。」
と、隣に座っている近藤さんが笑う。
「このような愛くるしいお嬢さんを、今日はどうして私たちに紹介くださったのでしょうか?」
その横にいた伊東さんが不思議そうに聞いた。
「この娘はちょっと変わり者でな。女子のくせに神社仏閣に興味があって、この京都に遊学に来ている。しかし見ての通り、薩摩から来たばかりで右も左もわからない。預かり者の娘だから、新撰組の方々と面通しがあれば、この私も安心できるというものだ。」
「ふふ…なるほど。これだけ美しいお嬢さんだ。何処で悪い虫が付くともわからない。ましてやうちには歳…いや、土方みたいな手の早い輩もいますから、ここで面識を作っておけば虫除けにもなるというもの…。大久保さんも考えましたな。」
「くっく。近藤さん、それはそちらの考え過ぎだ。ただ、この娘を道すがら見かけるようなことがあって、何か困りごとがあれば助けていただきたい。」
…そっか。大久保さん、なんだかんだ言っても私がこっちに来るきっかけになった神社を探しやすいように、仕向けてくれてるんだ…。
「ふふ。しかし本当に美しい…。大久保さん、いずれはお召し抱えされるおつもりで、側に寄せているのではないですか?」
ちょっと冗談めいた口調で伊東さんがそう言った時、土方さんと目が合った。
射抜くような強い眼力…。その後そっと目を伏せて視線をそらす。
「さて…それはどうだろうか…?」
突然、大久保さんが私に目線を向ける…しかも首を傾げて…。
ちょっ…やめてぇ〜…この重苦しい雰囲気…。お見合いじゃないんだからっ…///。
お見合いしたことないけど…。
何か言いたいけど、この空間って、女の子が大人に絶対意見できない、そんな空気が部屋中に充満してる。
綺麗な着物を着せてもらってうきうきだったのに、私は借りて来た猫のように小さく縮こまってしまった。
「わかりました。今日はこれにて、おいとまいたしましょう。」
「それでは名無しさん、またお会いできるのを楽しみにしています。」
「…失礼いたす。」
そう言って、近藤さん、伊東さん、土方さんたちは邸の人の案内で部屋を下がって行ってしまった。
去り際に、土方さんと一瞬、目が合ってドキドキしてしまう。
土方さん、少し…微笑んでた?
ひとこともお話できなかったな…。
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