sweets

ぎゅっと抱きしめて
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あれから

彼女に想いは募るばかりだ。


あの日________。

僕らは結ばれた。

明るくて可憐で…勇ましくて、はかなげで…。

そんな名無しさんを手中にできた喜びは、計り知れなかった。



あれは夢だったんだろうか?

あれから僕は彼女を抱けていない___。



藩邸に戻ればまた普段と変わらぬ日常が待っている。

幕府に引導を渡し、新しい世を築くために東奔西走する毎日…。執務に会合、策謀を張り巡らし先の先まで予測して行動する日々…。そして晋作の病…。

晋作の体調に気を配り、少しでも快方に向かうように情報を収集して実践する。

そのどれもが私にとって、欠くことのできない大切な事柄だった。



「おい。そんなに根を詰めていると、一気に老け込むぞ。」

「晋作。…そんなに私は気忙しく見えるかい?」

「名無しがおもしろい言葉を教えてくれた。小五郎、もっと“りらっくす”しろ。」

「リラックス?」

「ああ。生き急ぐ、生き馬の目を抜く、そんな言葉もあるけど、たまには“りらっくす”しろよ。」

「ふ…。心を弛緩させるということかい?」

「はっは!その言い方も堅苦しい!たまにはくつろげってことだ!」

そのとき、開け放した襖の向こうから、心地よい初夏の風が吹き込んでいて、晋作と僕の前髪を揺らして通り抜けて行った。



「俺の心配なら無用だ。俺はこの“労咳”ってやっかいな奴を、俺の一部だと受け入れて人生を全うさせる。」

「晋作…」

「とにかく、俺はまだ生きてるし、今んとこ元気に二本の足で立っている。先を見据えすぎて心を窮するな。」

「…ふっ、どうやら気遣われたのは私のほうだね。」

「名無しに話しかけてやれ。寂しがってるぞ。」

「…いや、今朝も朝餉のときに話をしたけれども…?」

「おい!そうじゃないだろ!
は〜、鈍牛は治らんなぁ…。」

「ふふ。お言葉だね。」

「とにかく行ってやれ!」

「ああ、ありがとう。」
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