隠し部屋

□心までの距離
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相葉はオレの手を引いて、有無を言わさぬ勢いでズンズンとリビングまで引っ張る。

(ここ、オレんちなんだけど…)

戸惑うオレを余所に急に立ち止まってパッと振り返った。

「ダメじゃん!おれ手ぶらっ。
しまったー。慌てて来たから」

とてつもなく大きな失敗をしてしまったように頭を抱える。
そのオーバーな身振りに思わず吹き出してしまった。

「いいよ別に。
気持ちだけありがたく頂いとく」

「しょーちゃん、笑い事じゃないでしょ」

「ははっ。いいってホント。
大体、男ふたりで誕生日のお祝いって、何すんだよ」

「んー、…えっちなこと、とか?」


ふいに腕を引っ張られて、視界がぐるりと回る。
バランスを崩して倒れこんだソファーで、オレが相葉に覆い被さるような格好になった。

すぐ真下に、楽しい遊びを見つけたようにキラキラした目がある。
ほんの少し首を傾ければ唇が触れる距離。


「誕生日プレゼントはおれー。
なんつって」


こいつの行動はいつだって突然で、突拍子もなくて、心臓に悪い…!

人の気も知らないで、相葉はやっぱりニコニコしている。
オレの動きを封じるように背中にするりと手を廻してくるから、そのまま至近距離で見つめあう。

もう…どうしようもなくドキドキしてる。


「…おまえ。オレのこと、気持ち悪いって思わないの…」

「気持ち悪いってなんで?」

らしくなく掠れる語尾に、不思議そうに返してくる。


「…男だし」

「おれも男だよ?」

「だから…っ!」


だから気持ち悪くないかって聞いてんだよ!

キスまでならノリや冗談で出来るけど、今おまえが言ったことはつまり…そういうことなんだぞ?


少しの間に動揺し始めた時、ふいに「くふふ…」と特徴のある含み笑い。

「な……おわっ?!」

いきなりぐるんっと体制をひっくり返されて、気がつけば相葉の腕の下に組み敷かれている。


「そんなこと心配してたの?
だいじょーぶっ。
おれ、免疫あるから」


え・・・?


唇が触れる。

そこから、冗談ではすまされないような濃厚なキスに変わる。

口腔内を隅々まで探られ、舌を吸い上げられて、全身がビリビリと痺れる。

「…っん…ぅ」


凄く重要なことを言ってた気がする。

でも、頭がくらくらして何も考えられない。

というか…あまりに深すぎて酸欠状態!


「んっ…ちょ、待てっ…」

「えー。この期に及んでお預け〜?」

尚も楽しそうに、顎や首筋に唇を当てて責めてくる。

「やめろって…」

「しょーちゃんのやめろは、やめろに聞こえないなぁ」

弱く拒む手を顔の横に縫いとめられる。

「…もっと、って聞こえる」



たぶん、確かめなきゃいけないことが幾つもあると思うんだけど。

身体が快楽に流されたがっている。

擦りきれそうな理性を振り絞った。


「ー惚れてるって、言え。

オレを抱きたいなら…好きだって…」

ただひとつ。
今はそれだけでいいから。


相葉は口の端を上げて「すげー上から目線」と、クスリと笑った。

「好きって言ったら、おれのこと貰ってくれんの?」


奪っていくのはおまえのクセに。


「好きだよ。しょーちゃん…」

鼻にかかった甘い声が胸を震わせる。
特別な今日が終わっても、また言ってくれるだろうか。


おまえの「好き」とオレの「好き」に、どれくらいの温度差があるのかわからないけど、身体に灯った熱で、その境界線を曖昧にしたい。

 
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