隠し部屋
□心までの距離
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冷静に考えれば、明確な言葉を言われたわけじゃない。
オレの気持ちを暴かれて、キスされた。ただそれだけ。
あれから相葉の態度にこれといった変化はないし。
オレだってキスのひとつやふたつで浮かれてしまえるほど楽観的な性格には、残念ながら出来ていない。
そもそも、端から負け試合だと思って勝負を放棄していたのに、思いもかけず進展してしまって、どうしていいのかわからないのが本音。
今までと同じように振る舞うのが精一杯って感じだ。
あの時、相葉の気持ちを感じ取ったように思ったことさえ、錯覚だったんじゃないかって…。
だからメンバーが揃うレギュラーの仕事は普段より気力を消耗して、帰宅してすぐ、ぐったりとソファーに身を預ける。
ここで寝たら良くない。着替えて風呂にも入んなきゃ…。
考えながらも瞼は落ちていった。
テーブルの上に投げ出してあった携帯がバイブレーションで細かく震えてカタカタと音をたてる。
それに気づいて目を覚ました。
(うそ…相葉?)
液晶に映される名前にドキッとしてしまって焦る。
気持ちを落ち着けるために、一度息を吸って吐いた。
「…もしもし」
『あーっ、しょーちゃん!
よかった、まだ起きてた。
今からダッシュで行くからっ。
いい?寝ちゃダメだよ!』
一方的に言うだけ言って、ブツリと通話は切れる。
なんだ?なんなんだ?
呆気にとられて数十分後。
インターホンを連打され、慌ててオートロックを解除する。
夜中に扉まで連打されたらたまらないと鍵を開けて待機していると、勢いよくドアを引いて駆け込んで来た。
「あー間に合ったぁ。
ラジオの収録が押しちゃってさー。
ギリギリセーフッ」
「こんな時間に随分なテンションだな。
何か急ぎの用事?」
内心のドキドキを悟られないようにわざと不機嫌を装った声に、相葉は目を丸くする。
「なに言ってんの?
今日は翔ちゃんの誕生日でしょ」
え…。あれ?
そうか。今日、25日か。
玄関先で靴も脱がないまま、相葉はオレの両手を自分の両手で包む。
「ーお誕生日おめでとう。
それから、翔ちゃんを産んでくれたお母さんにありがとうって言わなきゃ。
おれたちを出逢わせてくれて、ありがとうございますって」
「ー…っ」
仕事上、誕生日を前後してお祝いを言われたりされたりすることがあるから、実際今日が何日なのか忘れていた。
本人がそんな感じなのに、わざわざ日付が変わる前に大急ぎで来てくれたのか。
大袈裟すぎるぐらいのおめでとうを照れも気負いもなく言ってのける。
真っ直ぐな言葉は、ちゃんと真っ直ぐオレの胸に響く。
まずい…。
ちょっとジーンとしてしまってる。
リアクションに困って礼も言えずにいるオレを余所に、腕時計を見てまた一際大きな声を上げる。
「しょーちゃん大変!
お誕生日が終わっちゃうっ。
お祝いしなきゃ!」