戯言

□memory
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木目の天井が目に入った。
というのも寝起きだから微妙にぼやけて見えたのだけれども。

古めかしいというよりは、本当に古い家。
四畳ほどだろうか、余計なものがない狭い部屋の中で、零崎人識は目を覚ました。


ゆっくりと布団に手をついて上半身を起こす。

何故下腹部が痛いのかは知る由もないが、隣で寝ている戯言遣いが物語っている。
いつもならば寝息を立てている彼よりも早く起きるなんてことはあり得ないし、
起きていても彼は絶対狸寝入りをしたまま自分の様子を見ているのだから。




しかし、今朝の零崎人識と呼ばれる人間は違っていた。








「……?」


零崎人識は、失っていたのだ。
記憶を。

というよりも、文字だとか物の名前だとかは覚えている。
だが、この骨董アパートという場所、
零崎人識という自分の名前、
19という自分の年齢、
零崎一賊の秘蔵っ子として育ってきたなどの自分のこと。



そして、自分と関わった名も無き戯言遣いのことも――…









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