Story

□陰に潜む心
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「キャーーー!!」

ドカッ!

人が驚き逃げ惑い響く声。

壁を破壊する音。

今回は湯隠れの商店街。

とにかく人がたくさん集まる場所でそれは度々起きた。

世間で言う、無差別殺人だ。

「あぁ―!イライラする!」

殺人鬼の男の名は飛段。年は20。

彼が無差別殺人をする理由。それは、里の平和への苛立ち。こんな自分勝手で理不尽なことを犯すようになった彼の過去に何があったのかは知らない。

彼の平和への苛立ちは必ず人に向けられる。気が向いた時に人を殺す。年齢や性別など関係ない。自分の気が済むまで殺し続ける。

今の彼は人を殺すことで快感を得ている。所謂、快楽殺人。

とにかくイライラしたら人を殺す。
飛段はそうしなければ気が済まなかった。

飛「てめェらみんなジャシン様の贄になるんだ!ゲハハハハハァ!!」

小さな子供が逃げ回る。それを守るかのように母親が子供を抱く。

慌てふためくお年寄りが転ぶ。

それにも構わず飛段は愛用の三刃の大鎌を振り下ろし、1人、また1人と命を奪っていく。

人々は彼を『生きた死に神』とよんだ。

実際、彼は不死身だった。だから生とか死とかもはや彼には関係ない。ジャシン教の人体実験より得た不死の身体を持つ。

勿論反発し、彼が殺人を犯す度に彼の身体に外傷を与えた者も少なくない。

だが彼は何をされても死なない…いや、死ねない。

飛段は、死体だらけの戦場と化した商店街の路地をまだ生きている奴は居ないかと探し回り歩いた。

その時だった。

飛「!」

不意に飛段はみぞおちの辺りに違和感を感じた。
変にヒンヤリとする気持ち悪い感じだ。

彼は咽せて吐血した。

と同時に、違和感を感じたみぞおちに激痛が走る。

飛「痛っ…」

みぞおちを見ると鋭く細い杭のような物が刺さっていた。

飛段はゆっくりと後ろを振り返った。

立っていたのは湯隠れの上忍。

上「隙あり、だな」

飛「痛ェてんだよ、何すんだてめェ」

上「…人々を散々痛めつけたくせして自分が刺されたら痛がってワーワー言うんだな」

飛「うるせェ!黙れ!てめェにオレの何が分かる!」

上「犯罪者の気持ちなど…分かってやる価値もない」飛「…!…」

上忍の今放った一言、それは、なんとなく心に刺さる一言だった。

勿論飛段は、平和主義なこんな奴等に自分の苛立つ気持ちなど分かるわけ無い、まず分かって欲しくもないと思っていた。

だが、ただ自分の苛立ちを快楽に変えているだけだというのに、ただ必死に自分の気持ちを(人を殺すことで)コントロールしようとしてるのにそれを簡単に犯罪者とか言われて差別されるのは気にくわなかった。

飛「……」

上「飛段、お前を拘束する」

飛「オレの…」

上「…!…」

飛段は、刺されたみぞおちから落ちた自身の大量の血を使い、ジャシン教印の円を足で地面に描きだした。

飛「てめェがオレの気持ちを分かる価値も無ェなら…、」

上「…?…」

飛「てめーらみんな生きてる価値なんか無ェんだよ!!」

飛段は持っていた鎌のワイヤーをビュン!と伸ばす。鎌は彼と上忍の頭の上を通り越し、上忍の背中を狙う。

上「くっ!」

上忍は必死にかわす。今から飛段がやる事を理解して悟っていたから。

上「お前、スピードは遅いな!」

飛「ぅるせェエ!」

叫ぶと同時に飛段は、懐にしまってあった黒く長い杭を上忍目掛けて投げた。

上忍はそれに気づき、余裕でかわそうとする。上「…だから遅いと言っているだろu…!?」

グサッ!!

杭をかわした上忍だったが、後ろから飛んできた鎌の餌食になった。

上「ウッ…くッ…し、しまった!」

上忍の背中に浅く刺さった鎌を飛段は自身の元に戻す。

傷こそ浅く、普通に立ち上がった上忍だが、痛みに顔を歪める。

飛「ゲッハハァ!油断したなバーカ!」

飛段は鎌に付着した上忍の血を舐めた。

彼の身体が白黒に変色する。

上「…出たな」

飛段は先程地面に描いた円の中に戻る。

飛「…」

上「く…くくく」

飛「何が可笑しいんだよ?」

飛段はもう1本の杭を懐から出して伸ばす。

上「…お前みたいなクズに殺られるとは、オレも落ちぶれたものだ」
飛「…クズはてめェだろ」

上「あ?誰がクズだと!?」

飛「だからてめェだっつーの!」

上「お前、昔はそんな奴じゃなかった気がするぞ…違うか?」

飛「はぁ?…よく言うぜ!」

上「…?…」

飛「てめェらがオレをこうさせたんだ!!」

上「…!…」

飛段は杭を上に振り上げる。

上「…くっ!…」

…そしてそれを一気に自身の胸に振り下ろした。

グサッ!!

上「…あ…ぁ…」

上忍は胸を押さえる間もなくかすれた声を上げ、息絶えた。

飛「へっ!また死んだ!…しかも急所を一発貫いてやった…はぁ、気持ちいい…」

飛段は胸に刺した杭をゆっくりと抜く。

彼はズキリと痛む胸とみぞおち辺りを1回ゆっくりさすると、隣で死んでいる上忍をギロリと睨んだ。そしてニンマリと笑みを浮かべ、高笑いをする。

飛「…ゲハハハハハァ!!てめェらみんなジャシン様の贄だァ!!」

そして彼は上忍の死体の上に片足を乗せた。足に力を込める。

そして一瞬切なげな表情を浮かべた。




―――分かるわけ無ェんだ。




――――誰もオレの気持ちなんかわかってくれる訳がない。



------とりあえずfin------

2012.1.31

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