Story

□葛藤と安堵
1ページ/1ページ


“おめでとう、飛段。

これでお前は晴れて不死の身体として生きていくんだ。これで自分だけ痛い思いをする必要もない。殺戮の儀式をするだけで他人と痛みを共有できるんだ。他人にも自分と等しい痛みを解らせることができるんだよ。素晴らしいことだろう?”




ジャシン様からの祝福。それは飛段にとって何よりの喜び。

ジャシン教の人体実験が成功して不死身になってから飛段はジャシン様一筋で生きてきた。

殺戮が出来れば何でも良かった。

否、それは今でも同じことだし、ジャシン様からの祝福は忘れない。

そして、この時の飛段は、人生の中で唯一信じているものがジャシン様だけであった。




あいつに出会うまでは。




「飛段」

「今夜は儀式をさせてくれ」

「またか」




飛段は時折角都からの用事や個人的な誘いを断る。

それはわりと暁のアジト内でも有名な話であり、普段の角都ゥ角都ゥといった様子からはあまり想像できないものだ。



確かに、飛段にとって角都は先達となる不死の忍として大切な存在であることは間違いない。そして、これ以上の相方はいない。これはお互いが自負しているところである。
だが、ジャシン教の儀式は飛段にとって食事をすることと紙一重のようなものだ。
そして何より飛段は、殺戮で他人と痛みを共有する儀式をすることによってどこか安堵感を得ているようであった。自分は周りとは根本的に違う、死なない、否、何をしてもされても絶対に死ねないといった特性のある身体だ。これは角都とも違うところ....。儀式をし、痛みを味わうことで、自分は、無神論者同様に痛みを感じ、痛みによる苦痛で“当たり前に”顔を歪め、傷口からは“当たり前に"出血し、そして何より、不死身の化け物でなく1人の人間として生きているということを......自らの身体でそれを確かに実感できるからだ。




このように飛段はだいぶ儀式に執着している。

「オレだってめんどくせーけど、戒律なんだからしょーがねーだろ」

そうは言いながらもなんだかんだ儀式に快楽を見出している飛段の様子を角都はあまり快く思っていなかった。




「飛段...」

「わりィな角都、今日はまだ儀しウワァッ!!!!!」




角都も我慢の限界がきていた。




「きゅ、急に胸ぐら掴みやがってなにすんだコラァ!!オレは今儀式がしてェんだよ!ちょっとくらい待ってろってェ!」

「うるさい黙れ...」

「んだァ?キレてんのかァ?」




飛段は、角都の様子が今日はちょっとおかしいと思った。




「黙れと言っているだろう。今日という今日は抵抗したら本当に殺すぞ」

「だからそれをオレに言うかよ!ジャシン様がお怒りになられ「それが気に食わないと言っている!!!」




飛段の前ではいつも冷静な角都が珍しく大声をあげた。




「.....ハァん?どうしたのお前。今日やっぱおかしいぜ?」

「おかしいのはお前のほうだ。事があるたびジャシン様ジャシン様と....見えないものに執着したところで何になるというのだ。そんなものやめてしまえ」

「っ....!テッメー言ってくれたなァ!」




そこからまたいつものように神への冒涜だとか裁きが下るぜとか喚くのだろう。角都はそう思い込んでいた。だが、今日の飛段から出てきた言葉は、その予想とはだいぶ違ったものだった。




「へっ!あーあっ、そーかよ。やっぱテメーもオレの事否定すんのかよ。テメーなら解ってくれると思ってたのに。信じてたのに」




んー言ってしまった。角都は少しばかりそう思った。怒りに任せてつい....。久しぶりに後悔という感情を持った気がした。 こいつは機嫌を損ねると後々面倒だ。だが同時に新たなことがわかった。あれほど宗教に依存し、信じるものがそれしか無かった奴が今、角都を“信じてたのに”と言ったのだ。もともと信心深い奴の“信じてたのに”という言葉は何だかとても重く感じられた。




しばらく沈黙が続いた。




「飛段」

「んだよ話かけんなクソジジイ」




沈黙を破ったのは角都だったが、飛段のほうは完全に拗ねているようだった。




「......いつだったか、ジャシン教の否定は己への否定だと言っていたな」

「........だからなんだよ」

「オレはやはり目に見えない神など信じることはできない。だがな、思えば貴様と組んだのも、不死身である貴様だからこそだ。いくらその宗教が解らなくとも、貴様が不死身であることは誰にでも信じさせられる事実だ」

「.........」

「オレは宗教が理解できぬだけであって貴様を否定したつもりはないんだがな」




角都はなかなかこのような本音を言わないタイプである故、若干恥ずかしそうに頭を掻いた。




「ホントかよ...」

「ああ」

「んー......」




と、飛段はそのまま黙り込んでしまった。




「.....角都にそう言ってもらえるなんて予想外だったぜ」




そう言うと飛段はまた口ごもってしまった。普段のように思ったことを思った時にベラベラ何でも喋る様子とは全く違った。




「あー....んー....ジャシン様と儀式はオレの身体の一部みたいなもんだからよ....やっぱしなくちゃなんねーんだ。儀式してると安心するし」

「安心だと?」

「ああ....不死身でありながらちゃんと痛みを感じれるから安心する。贄になる奴らと痛みを共有してると、オレもちゃんと痛みを感じれるフツーの人間なんだなーって」

「.....貴様が儀式に執着する理由はそれか?」

「んー、まあ、戒律だからしょーがねーってのと、それもけっこーあるかもなァ」




沈黙の中、理由がはっきりせんな。とツッコミを入れたかった角都だが、それよりも飛段がそこまで儀式に執着する理由が解った気がした。そして何より、目の前の男はあまり、否、むしろだいぶ頭がいいとは言えない奴だが、不死身という特性を持つ事により、それはもはや人間ではないのではないかという仮説が浮かぶに至ったことを哀れに思った。同時にそれは、角都自身にも重なるところがあるのではないのかと思ったのである。




「でもな」




次の沈黙を破ったのは飛段のほうだった。




「それ以外にも安心できる時が前より増えたんだぜ」

「???」




角都はそれが何かはわからなかったが、さっきの不貞腐れた顔と打って変わって今度は嬉しそうな飛段の顔を見て、本当に感情の起伏の激しい奴だ。と滑稽に、だがどこか憎めなく思った。




「それは一体なんだ?」

「テメーといる時」




角都にとって飛段の発言は今日一番の驚きだった。




「だってよ、同じ不死の忍に会えるなんて思わねーし。なんつーか上手く言えないけど、儀式にも頼らずにお前とは一緒に任務してるだけで安心するからさァ....オレ達やっぱ運命かな」

「突然....何を言い出すかと思えば....」




角都は一番に“それはオレもだ”と思ったが、そのような言葉を直ぐに口にできるほど素直な男ではなかった。




「んまァー、今日は悪かったな角都ゥ。今度からは任務以外にももっとお前との時間大事にするから」

「フン.....お前の気持ちが少しばかり解ったからもういい。オレもいろいろすまなかったな」

「おうよ!テメーが謝るなんて珍しーな!やっぱ今日お前変だよ!てか、ん?アレ?つまりオマエ、ヤキモチ焼いてたの?角都ちゃん?ジャシン様にヤキモチ!?アレェ?!」

「うるさい黙れ飛段」




角都の渾身のビンタが飛段の頬に炸裂した。




「うがっァこっのやろ!痛ってーなァ!何すんだよホントのことじゃねーのかよォ!」

「これ以上何か言ったら今度は腕を硬化して叩くぞ?」

「あァ!?オレの身体なめてんのかァ!?やれるもんならやってみろよ!!!」




わーわー喚く相方を他所に、角都は布団の用意をし出した。そして今夜はいつもよりどこかすっきりした気持ちで眠りにつくことができた。それは飛段も同じだったようである。




ー翌日。任務前。




「おい飛段」

「ぁんだよ?」

「お前は人間だ」

「.....え、な、急になんだ、よ....」

「バカだからな」

「ハァ!!てっめマジで許さねェ!!!」

「うるさい置いてくぞ」

「あ!お、おい待てよ!!角都ゥ!!」



人は、生きていく中で下された選択肢から、どちらを選ぶべきか、どちらを大切にするかという葛藤に悩む時が必ずある。
その中で、たとえそれらを選択できなかったとしても、それらが自分の中で安堵感を抱くことができるものであれば、いくつでも信じることができ、更に大切にしようと思えるものだ。


お互いがお互いに持つ安堵感。それを更に実感しあえた不死コンビ。それからというもの、術の連携の強さにも更に磨きがかかったとか。



2014.9.2

なんか前から書きたかった角飛のお互いへの気持ち。



-END-

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ