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□つまりは馬鹿みたいに甘くて幸せなのです
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ふわり


ふわり


視界の端で銀色が踊る。
蝶のように舞い、蜂のように刺す、なんて言葉があるが奴はそんな手ぬるいものじゃない。体をくねらせてこちらを誘い、しかし近づけば刺すどころか命を吸い取られる。まるで天女の姿をした死神のようだと思ってから、馬鹿らしいと角都は鼻で笑った。


ワックスで固めた銀色が夕日を浴びてきらきらと光りながら敵の黒い姿と、そこから噴き出す赤いもの間を駆け抜ける。それを横目に写しながら角都は己の術、地怨虞でこちらを斬りつけようとかかって来た敵の首を絡めとり、ぎりぎりと締め上げた。
ぐがぁ、と自分は絶対上げたくないような情けない声を出してもがき苦しみ、やがて敵は絶命した。

悪趣味というか、後味の良い殺し方でないことはわかっている(そもそも戦場において良い殺し方などあるのかという疑問はさて置き)。自分はこのスタイルが一番安心出来る。敵に近づかない近づかせない、投げられた忍具は全て弾き返す。打つ手の無くなった敵は武器を抱え、闇雲にこちらへ突進する。それを捕まえ、絞め殺す。
悪趣味ではあるが一番効率的かつ安全な戦闘方法だと自負している。
その自分の戦い方に比べて、と角都は視界の端で舞う銀色を見た。

奇声に近い雄叫びを上げながら飛段が高く跳び上がる。確かに跳べば勢いはつくが、空中にいる間は格好の的だ。
思った通り飛段の体に、飛ばされたクナイや手裏剣が遠慮容赦なしにザクザクと突き刺さる。しかしひとつ計算違いなのは、それで飛段が怯むと思っていることだろう。
飛段は怯むことも失速することもなく両手で構えた大鎌を敵がいる方へ滅茶苦茶に振り回す。あれで当たる方も当たる方だな、と角都は思いながら自分の敵に向き直る。
ゲハハハァ、なんて奴特有の馬鹿丸出しな笑い声が戦場に谺した。


現在、角都と飛段は賞金首と戦闘中である。今回の賞金首がこれまた面倒なことにひとつの集団のようなもののリーダーで、そいつらを全員倒さなければ賞金首まで辿り着けなかった。

たった今殺した者の亡骸を敵の方へ投げつける。戦闘はだいぶ前から始まっており、すでに集団の半数は亡き者になっていた。しかしこのペースでいくと全員倒す頃には日が暮れてしまうだろう。さすがに暗闇で敵を倒すのは難しいし、万が一賞金首が逃げてしまっては元も子もない。


「飛段」

「どーしたァ角都」

「時間の無駄だ。一気に片をつけるから下がれ」


いつもならばもっと殺させろだの生贄にするんだだのと騒ぎ立てる飛段だったが、数の多かった今日は存分に暴れられたからか、おとなしく鎌を背中に戻して角都の後ろに下がった。

飛段が下がったのを確認してから角都は前かがみになり、背中から圧害と呼ばれる風遁の面をした心臓をずるりと下ろした。

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