鬼徹

□第七話
1ページ/1ページ



地獄では自分の身は自分で守るのが基本だが、あたしは鬼灯様に勝てる生物を知らない。閻魔様ですら、鬼灯様に(物理的な意味で)振り回されているのは日常茶飯事で、誰も驚かない。そして、その鬼灯様は寝起きが最悪らしい。なのに、起こさないと仕事に支障が出る。

(もし死んだら殉職ってことになるのかな…)

と、少々物騒なことを考えながら部屋の扉を叩いた。


「鬼灯様、起きてますか?閻魔様が呼んでます」


声をかけてから、扉に耳をくつける。返事どころか、物音すらない。

覚悟を決めて、扉を開く。


「失礼しまーす…」


鬼灯様の部屋はそこそこ広いのだが、鬼灯様の多忙さゆえ、本や贈り物、薬品、書類などが雑に置かれていて窮屈に感じる。さらに、あたしが居候することになったせいで、あたし用のスペースが手前にあり、簡易な間仕切りの向こうに鬼灯様が寝ているベッドがある。間仕切りの後ろで、鬼神が寝ていると思うとなんとも言えない威圧感があった。

…まだ、起きてはいないようだ。鬼灯様みたいな人は人の気配に敏感そうなんだけど……あ、逆に寝込みを襲われても負けない自信があるのかな…。結構、気配で察して起きてくれることに期待したのだが、起こすしかないようだ。覚悟はしたつもりだったが、実際部屋に入ると変な汗をかく。

とりあえず、さすがの鬼灯様もリーチ的に届かないよう、間仕切りの向こうから覗きこむように声をかけた。


「鬼灯様、起きてください」


向こう側を向いた鬼灯様は身動きすらしない。声を張ってみた。


「鬼灯様!」


もぞ、と動いたので起きたかと思ったが、寝返りをうっただけのようで、起き上がる気配はない。

やはり、近づくことは必須なのか。

悪あがきとわかっていながら、何か無いかと見渡して、目に留まったのは金棒。


(…そうだ!)


その瞬間、閃光が走る。金棒で突っつけば良いんじゃない?近づかなくて済むし!

思い立ったら即行動。壁に立て掛けてあった金棒を手に取った。


「って、重たっ!!」


鬼灯様がいとも容易く振り回しているから、頑張れば持ち上げられるかと思ったが、かなり重い。持ち上げるなんてとんでもない。引き摺るどころか、金棒の床についてる方の先を中心に動かすのがやっとだ。

あー!なんかこうなったら意地でも金棒を動かしたい!


「ぬをぉぉおお!」


「…何をしているんですか?」
「え?」


声のした方を振り返ると、姿勢はさっき見たままに、目だけ開いた鬼灯様がこちらを見ていた。

一気に血の気が引いた。

まさか、本来の目的を忘れて、金棒を動かすことに必死でした、なんて言えない。言えるはずがない。
ましてや、金棒の利用法なんて…。


「え、いや、あの、閻魔様が鬼灯様を呼んでいたので…」
「まぁそれはわかりますけど…」


そういいながら、のそりと起き上がって、布団の上にかけてあった服を羽織った鬼灯様はちょっと楽しそうだ。


「…まさか、起きてました?」
「はい。扉の前でウロウロしてた時点から」
「ギャー!!」


それって"全部見てた"ってことじゃないですかーっ!!

…あ、まぁでも流石に金棒の利用法まではわかってないよね?


「狸寝入りとかやめてください!」
「蕃茄さんが、私をどう起こそうとするのか気になって」
「そういう問題じゃないです」
「でも、まさか"上司を金棒で突ついて起こそうとする"なんて…」
「……」


全部理解していらっしゃる…。


「次はもっと優しく起こしてほしいです」
「次なんて無いですから!」


あたしは、金棒で起こそうとした申し訳なさと変な行動を起こしてしまった恥ずかしさ、鬼灯様が怒ったかもしれない恐怖から逃げるように閻魔様のもとへ走った。




上司の金棒→推定、閻魔様くらいの重さ
(あ、蕃茄ちゃん!鬼灯くん起きた?)
(起きました…)
(だ、大丈夫だった…?)
(精神的に大打撃です…)
((鬼灯くん何したの?!))




――――――――
上司の金棒って…卑わ(ry←

オチを見つけられなくて3パターンくらいボツりました。
この長編の路線はギャグなのかな…?あやふや…

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ