☆The Messenger
□1話
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授業中だと言うのに教室がガヤガヤしているのは、弛むと言われる高校二年生の最初の時期だからだろうか。
「はーい、静かにぃ!」
ロングホームルームで、何度注意しても静かにならないクラスメイトに苛々している学級委員が叫んだ。
それでも静かにならず、三度目か四度目かようやく落ち着いてきたというところで、今日の題目について話し始めた。
「……えーとですね、そろそろ文化祭ですので、今日はクラスの出し物について話したいと思います!」
そう言った後、クラスが嬉々とした雰囲気に包まれる。いつもは気怠いロングホームルームが、今日は年間で一番の盛り上がりを見せる文化祭についての話し合いになるらしい。しかも、次の授業の担当の先生は出張のため、次の時間もホームルームとなる。
元気なら有り余っている高校生にとって、嬉しい事でないはずが無かろう。
たが、結にとっては、そんなことは些末事に過ぎなかった。文化祭には、中学の頃から良い思い出が無い。特別盛り上がるものでも盛り下がるものでもないのだ。
「じゃあ、クラスでどんな出し物するかを決めてー」
指示を出した途端、クラスメイトは近くの人と相談しだした。
聞こえてくる声はどれも似たようなもので、だがその声は活気に満ち満ちている。
だが、結に話し掛けてくる者はいない。
結はさも当然のように机の中に入れていた文庫本を取り出し、読み始めた。
「ちょっと神崎くん、あなたも考えて」
本を読むことに対し、学級委員が注意をしてきた。学級委員は誰でも分け隔てなく接する人望の厚い人だと聞く。
がしかし、裏を返せば、たとえ話し掛けて欲しくなくいやつに対してでも無粋に踏み込んでいく無駄に熱い奴、となる。
結は、あまり好きでは無かった。自分がその話し掛けて欲しくない者の内の一人だからだ。
「すまない。トイレに行ってくる」
話の内容を一切合切切り捨て、文庫本を閉じると目の前の学級委員を押し退け、無理矢理教室の外に出ていった。
「ちょ、ちょっと!?古崎くんそっちにトイレなんか無いわよ。どこ行くつもり?」
真面目な学級委員は、クラスメイトを置いて外に出るわけに行かず、歯痒そうに教室の扉から結に声をかけていた。それも、廊下に響いて他クラスに迷惑をかけてしまうからと、小さめの声でだ。
真面目過ぎる。
結はそうぼやき、やはり好きにはなれないだろうとも思った。