☆The Messenger
□プロローグ
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空は、星の光で満たされている。
すぐそこまで海面が迫っていて、真ん丸な月を浮かべていた。
浜辺に座って思慮に耽っていると、後方から声が上がった。心配そうな顔をしながら、妹が駆けてくる。
またか、と呆れた。
「お兄ちゃん、またここに来てたの?お母さん達心配するよ」
振り返らず、答える。
「うるさいなぁ。俺に構うなよ」
鼻に貼りついている絆創膏を気にしながら、悪態をついた。
いつだって、妹はお節介だ。年下なのに、自分の事をまるで弟のように扱ってくる。
今日だって、そうだ。自分が小学校で喧嘩したことを注意してきた。怪我したら危ないでしょ―――そう、言い聞かせてくるのだ。あいつのパンチなんかどうってことないやと、そっぽを向いた。
だが、そっぽを向くと喧嘩相手の事を思い出して、苛立ったから舌打ちをした。
「舌打ちしないの。お行儀悪いよ」
「知るか」
「うぅー」
妹が、不満げに呻いた。妹は、注意はしてもその仕方が甘い。強気で言い返すと、すぐ黙ってしまう。
結(ムスブ)は、空を見上げた。
結は、四歳の頃に両親を海の事故で亡くした。そして、今の家に養子として引き取られられたのだ。あまり義親との関係は良くなく、むしゃくしゃする度にこの砂浜に来ている。ここは結の秘密基地(のつもり)で、学校の友達にも場所を教えていない。知ってるのは結と妹くらいで、でも妹が知ってるのは、結の後をつけたからで、結が教えたわけじゃないのであった。
ちなみに、妹は養女ではない。義親が結を引き取る二年前に生まれた子だ。妹はそんな事を知る由もなく、血が繋がっていると思っているらしいが、それが違う事を周りの誰も言わない。
だが、義親がどちらを可愛がるかと言えば、勿論妹で、でも、妹はなぜ自分が贔屓されているのかは知らなくて―――――。
結は、ジレンマを感じていた。妹は自分を本物の家族のような慕ってくれるが、そんな妹を可愛がる義親は結を排斥したがる。妹への慕情と嫉妬がない交ぜになり、形容し難い苦味があった。
気が付けば、拳を強く握りしめ、爪が手の平に食い込んでいた。
「いっつ……」
手を開けば、痕がくっきりと残っている。
「どうしたの?さみしそうな顔してたよ?」
妹が、顔を覗き込んできた。
「してねぇよ」
無愛想に答える。
「してるよ〜。ほら、寂しいの寂しいの飛んでけぇ〜」
頬をグリグリこねくり回した後、ポイっと何かを捨てる仕草をした。
結は、相変わらず仏頂面。
「おい」
「エヘヘ〜」
妹がはにかんだ。そして、結の隣に座る。
妹は、顔を上げると、驚いて目を見開いた。
「お星様きれい〜」
目は、輝いていた。
帰ろうか。
楓(カエデ)の笑顔を見ていると、そんな事を思うのであった。