◇短編小説・読み切り

□今日の2乗
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今日。

朝起きた時から、すこぶる気分が悪かった。


布団から普通に出て、立ち上がったらフラフラした。
こいつは風邪引いたな。二日酔いもあるだろうけど。

ヤバい。昨日はハシャギ過ぎたかなと、後悔する。
昨日は、明美が転校するからと言う理由で、ハシャギまくった。この寒さで、雪もバンバン降っているくせに、クラスメイトで明美んちまで言って、皆でバーベキューをした。

明美は今日、東京に行く。
親の都合で、単なる転勤で。それだから、転校する。生まれた時からずっと地元にいる俺は、それを何度も経験していた。ここは片田舎で、2キロくらいちゃり飛ばせばちょっと便利な場所に着くが、大抵は近くの商店街で買い物を済ます。
だけど、都会から転勤して来た人とかは、馴れなくて不便そうだった。
明美も都会から転勤して来たクチで、こっちに来てから一年ちょっと経って、それで元の場所に帰る。あっちからすれば、ただ単にちょっと長い留学程度だろう。
だが、何度も何度も転入してきては転校しての繰り返しが続くこちらは、あんまりいい気分では無い。
何せ、田舎のまったりした空気に、転校生はすぐ馴染み仲良くなってしまう。だから、それの裏返しとばかりに、転校して行く時は寂しくて寂しくて仕方が無いのだ。

明美も、その1人だった。
明るい明美は、沢山友達も出来て、ちょっと茶髪がかかったツインテールと顔は、男子の目を惹き付けるものとなった。
クラスの中には何人か明美が好きな奴がいて、俺もその中の1人。
正直、一目惚れだった。
クラスでは席が近かったから、積極的に話した。家も遠くは無いから、二人で帰った事も多々あった。
だから、転校前日のお別れ会と言う小学生が行うようなチャチな会には、真っ先に飛び付いた。
後悔しないように、告白してみようかな、なんて軽く考えてもいた。
無論、結果は期待していない。席が近いからよく話す位で、別段格好よくないし、入っているハンドボール部でも補欠だし、まぁいわば『影の薄い奴』で、転校したらすぐ忘れられるだろうなぁと思っていた。

だが、いざしようと思うと、なかなか難しい。
お別れ会には大人がいて、ちょっと雰囲気は作りにくかった。だから、シラフじゃやってられんと、中2にして始めてウォッカを一気飲みしたら、気絶して失敗した。だが、目が覚めたらこの上無いくらいテンションが絶好調で、シラフの友達を無理矢理外に引きずりだし、服一枚で寒空の下、思いっきり雪合戦した。

その結果が、これ。

体温図ったら38度以上あって、学校を休んだ。


勿体ない。
そう思った。
今日が本当に明美が転校する日なのに。
よりによって、そんな日に休むなんて。
熱か二日酔いのせいか、フラフラしている頭でさんざん後悔しながら、布団に再び潜る。
学校に行きたいなぁ。いつもなら怠すぎてしょうがない学校も、今日だけは行きたかった。
うやむや考えていたら(日本語の使い方がおかしくても、シカトして)、睡魔が襲って来た。
逆らうのも怠いので、為されるがままにする。
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