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□風邪薬
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どうやら風邪をひいたらしい。





―――――風邪薬






ひたすら全身が痛い。

ずっと同じ体勢で寝ていた所為か、首や腰などの関節が酷く痛む。

唾液を燕下するのですら喉が悲鳴を上げ、思わず眉をしかめた。

ぞくぞくとした寒気が全身を襲い、涙腺を刺激して涙が滲む。

頭蓋骨に熱が籠もっているようだ、軋む骨を動かして体温計を取った。

脇下体温計なので、名前の通り脇下に挟む。

キンとした冷たさが敏感になった皮膚に刺激を与え、心地良いと云うよりむしろ痛みすら感じた。

数分後体温計を抜き取ると



「(38.6℃……)」



あまり風邪などひいたことのない僕としては高熱だ。

本能的に体内を冷やそうとしているのか、自然と息が荒くなる。

脳を内側から殴られるような頭痛が響いた。

酷い倦怠感だ。

瞬きの度に瞼を引き上げるのですら面倒。

零れ落ちそうになった涙を服の袖で拭った。



「……骸?」



キィ、とドアの軋む音がした。

それから聞き間違える筈もない、ドン・ボンゴレ、沢田綱吉の不安げな声。

(誰か入って来たと思ったら君ですか)


 
「…何しに来たんです」



最早驚く余裕もない。

体中の筋肉と関節が悲鳴を上げる中、ゆっくりと寝返りを打って振り返った。

荒い息を小さく繰り返す僕を見て、彼は目を見開いた。



「お前が風邪ひいたって…クロームに聞いて」

「そうですか」



元々は彼女の風邪を移されたのだ。

栄養状態が悪く治りが遅い彼女を3日ほど看病してやるうちに、自分が頭痛に悩まされ初めていた。

(予期していたことだ、このくらい)

彼女は40℃くらいの熱を出していたから、きっと僕よりつらかったに違いない。

(3日目で治ったから良かったものの)

千種と犬は心配しているようだったが、彼ら(勿論僕もだが)の栄養状態も良いとは言えない。

移る可能性があるからと、部屋に入らないようきつく言い渡してあった。

(だから彼を呼んだのか?)



「見舞いですか。有り難いですが今は歓迎する程の余力がありません。君に移してしまうかもしれない」



帰れと云う意味だったのだが、理解できなかったらしい。

(本当に間抜けですね)

彼は持っていたビニールの袋をがさごそやって、ビンやら果物やらを取り出した。


 
「平気だよ、人に移せば治るって言うだろ。はいこれ、栄養ドリンク。林檎剥いてやるから飲んで」

「…いりません」

「骸」

「喉が痛くて飲めません」

「甘えんな」



ほら、とわざわざキャップを開けて差し出されるドリンク。

(この手の栄養剤は不味いから好きじゃない)

栄養ドリンクならクロームに飲ませてやりなさいと文句をつけながら、喉の痛みに眉をしかめて飲み下した。

どろりと舌にまとわりつく甘ったるい液体に、何とも言えず不快感が募る。

う、と小さく声を漏らした僕を見て、彼は満足げに微笑った。



「寝てろよ。あ、ナイフどこ?」

「…あっちです。わからなかったら髑髏か千種に訊いて下さい」

「はいはい」



あっちね、と彼は部屋を出て行った。

その背中を見送って、硬いベッドに倒れ込む。

全く、ひたすら眠っていたい時に迷惑極まりない男だ。

早く帰ってくれ、と呟きながら、口元が笑ってしまうのを布団で隠した。

(まさか見舞いだなんて)

(可愛い人だ、期待してしまう)




 
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