爆走彼女と俺

□彼女の謎。
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"ミコはさ、そういうの大っ嫌いなんだよね。
何て言うの?
こう・・・決め付けられちゃうの。"


・・・―――ミコ。


ミコの学校の校舎、初めて入る。(今までずっと校門に立ってただけだし。)
壁も床もトイレのタイルまで綺麗で、改装したのか、新しい校舎なのだと思う。
そんな事をボーっと考えていた。


"・・・―――キミちゃんこそ、それだけで
相手の性格決めてしまうんか"。



・・・だってさ、普通そう思うでしょ。
ミコ、君は120円で俺を彼氏にしたんだよ?
それにあの"仲原"。
14人も彼女がいるくせに、次はミコを狙ってた。

ミコは嫌じゃないの?
そんな奴、嫌いじゃないの?
・・・許せるの?

・・・―――不安、なんだと思う。
彼女がいずれ、俺の隣から離れていくような気がして。

"恋する"ってやっぱり楽しい事ばっかりじゃないみたいだ。
・・・そんな事を、実感してみたり。

その"彼女"は体育祭の出演準備のために生徒用テントへ行ってしまった。
・・・例によって、仲原と。

なので俺はここで待っている。
この一番眺めのいい、教員用テントで。(時々先生だと思われる人に"誰だお前"という視線を浴びるが、気にしてない。)

盛り上がり始めたグラウンド。
プツ、とマイクに電源が入る音がした。

『これより第53回、鈴和(すずお)学園体育祭を開催いたします。』

・・・すずお。
鈴和学園って言うんだ。
今まであんまり意識してなかった。
多分ミコから聞きはしたんだろうけど、見事に忘れてた。

ふぅん。
・・・鈴和。
鈴和学園・・・。
鈴のような声で笑うミコに、ピッタリだと思った。

・・・あぁ。
またミコだ。
ミコの事ばかり考えてしまう。
"ああ"言われて、"あいつ"と一緒なら尚更ねぇ・・・。
ため息をついた時。

「ねーテル君、あたしと付き合ってよ。」

・・・雑音に紛れて聞こえた、知らない女子の声。

何故わざわざこんな時に告白・・・。
しかもすごい軽い・・・。

・・・"テル君"?

テル君・・・
何か聞いたことあるような名前だな。
そんな名前の友達いたっけ・・・?
・・・まぁ俺には関係無・・・

・・・"テル"?

"てるよし"?


仲原輝良(なかはらてるよし)?!


バッと顔を上げて、声の聞こえた方向を探した。

すると、テントの影に二人組の男女を見つけた。

「(あいつ・・・!)」

間違いない、あのふわふわした頭は仲原だ!
相手の女の子は茶髪の巻き毛で、まつげの長い・・・いわゆる、ギャルだった。

・・・あー・・・。
好きそう・・・。
あいつとうとう15人目の彼女をゲットか。
・・・やっぱり嫌いだ、仲原・・・。

仲原はあはは、と笑うとそのふわふわした髪の毛をかき回した。


「ごめんね。」


・・・―――え?

「えー何でぇ?!
テル君他にも彼女いっぱいいるじゃん!
あたし別に本命になりたいとか思ってないし!」

思ってないのか?!
そんなものなのか?!


「んー・・・。
だから君は君の本命の彼氏見つけたらいいと思うよ。」

苦笑いでそう言う仲原。
・・・何で断るんだ?
お前の好きそうなタイプじゃないか。

「じゃあ何がダメ?
あたしのどこが嫌なのよ?!」

仲原は少し俯いて言った。


「君に俺は必要ないよ。
・・・君は強いからね。」



・・・―――仲原?

「何それ?
意味分かんない!
14人も彼女いて全員くらーい奴ばっかでさぁ!
何なの?
どんな趣味してんの?
ありえないから!!」

そう怒鳴って去って行く巻き毛の女子。
仲原は一人、俯いていた。


"14人も彼女いて全員くらーい奴ばっかでさぁ!"


内気な子が好み・・・なのか?
いや、・・・でもミコは内気じゃないだろ。
何で・・・断ったのかな・・・―――。

その時。

パァンッッ!!

「?!」

いきなり、何かが弾けるような音がした。
そしてグラウンドを見て、ようやくリレーが始まったのだと気付く。

さっきの音はピストルか・・・。

「(リレー・・・
そういえばミコ、アンカーで出るって・・・)」

生徒の列を見ると、蛍光ピンクのハッピが見えた。
・・・あの格好のまま、たすきを肩に掛けている。

・・・恥ずかしいよ・・・ミコ・・・。
そして、次の瞬間。

ミコと
視線がぶつかった。

「・・・ミコ。」

思わずそう呟いた。
ミコは笑いもせず、かつ、怒るでもなく、ただ俺を
俺の目を見つめていた。

『桃色、緑、青、赤、黄、各チームの現在の順位発表です!
一位は青チーム、他のチームを差し置いて猛然とトップを走ります!
二位は緑!
三位、赤、
四位、桃色、
五位が黄チームです!
皆さん頑張って下さい!』

放送がうるさい。
ミコ・・・―――。
どうしてそんな目をしてるの?
それは・・・

野良猫のような
目だった。


全てを捨てたようで、本当はまだ何かひとかけらの希望を持っている。

・・・都合のいい解釈だろうか。
でも、本当にそんな目をしてる。

俺はあまり人と関わらない、喋らない代わりに、相手の表情を読むことは上手い。(顔色を伺う、とも言う。)

『桃色チーム、アンカーにバトンが渡ります!』

「・・・?」

・・・桃色チーム?
・・・ミコだ!
ああ、なるほど。
だからそのハッピ、蛍光ピンクなんだ。

予想通り、ミコはアンカーとしてグラウンドの白いラインの前に立った。

・・・桃色チームの生徒が、近付いてくる。
走ってくる。
ミコにバトンを・・・―――。


―――・・・渡した!!
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